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8 南井 義希、絆されかける (※R18描写あり)
それは南井にとって20年振りのキスだった。
そうだった、他人の唇とはこんなにしっとりと柔らかいものだったのだ、と南井はそれを心地良く受け入れた。
ぎこちない唇に応えて、顔を斜めにずらして舌を差し入れると、自分から仕掛けて来た癖に村上の体がビクッと震えた。
唇を離して聞く。
「キスも、初めてだった?」
「…すみません。」
「謝る事じゃないよ。
良かったのか?私なんかにくれてしまって。」
「貴方に…義希さんに、ほんとは全部もらって欲しい、です…。」
それは、南井が運命の相手だからという事だろう。
確かに、αに対する嗅覚をほぼ失っている筈の南井の鼻がこれ程はっきりと強烈に嗅ぎ取れた点を思えばその可能性は限りなく高いのだろうと思う。
感知の鈍っている今の南井にとっても、村上の匂いは理性を失ってしまいそうな狂おしい馨しさだ。
けれど、村上には南井ではなく、もっと若いΩが似合うと思うのだ。
勿論、抱かせて気が済んでくれるならそうしてやりたいが、村上がαで南井に運命を感じている以上、セックスをしてしまえば途中で我を忘れて噛まれてしまうかもしれない。
自分と番になってしまうのは、後々若い彼の足枷になる。南井はそう考えているから、その状況になるのは絶対に避けたかった。
だから、提案した。
「…くちで、しようか。」
「え…」
「された事、ある?」
「…ないです…。」
背中に伝わってくる村上の鼓動がまた早くなる。
これは期待されてるんだろう、と南井は思った。
村上を寝室の壁に押し付けて、今度は南井からキスをした。
歯列を割って舌を侵入させながら、カチカチに張り詰めた股間を片手で撫でて、やわやわと揉むと、それだけで村上の息は荒くなった。気持ち良いのか。
スラックスの生地を通した太腿同士の体温が擦れる。
股間を撫で上げると硬さが増して、これは解放してやらねばと村上のスラックスのベルトを引き抜いた。
そしてスラックスを床に落とし、黒の下着をゆっくり下ろした瞬間、勢い良く腹に叩き付けられる程の勢いで飛び出すペニス。
(しまった…。)
その村上のペニスを見た瞬間、南井は今日一番の己の失態に気づいた。
村上のペニスは、大き過ぎた。
番を持っていたのだから、αの性器が大きい事は知っているつもりだった。
しかし考えてみれば、南井が知っているαも男も、番だった幼馴染み一人のみ。
勃起したαの性器なんか他に見た事が無いから、比較しようが無かったが、記憶の中の彼の性器を比較対象にしても、村上の性器は確実に一回りは大きい。
並べたりなんかしたら、Ωである南井自身の性器なんか小学生みたいに見えてしまいそうだ。
(こんなの、口に入るかな…。)
少し腰が引けてしまいそうだ。南井の口は、大きい方ではない。村上の性器の半分も、口の中には収まりきらないだろう。
しかし手伝ってやると言ってしまった手前、やれるだけやってみるしかない。
それに、大きさに反して純な色をしているし、刺激に慣れていないのかも。案外、早目に何とかなるんじゃないだろうか。
そんな希望的観測を持って、南井は屈んで片膝をつき、村上の怒張したペニスに細い指をかけた。
べろり、と裏筋を舐め上げると、性器に走る筋が一層浮き出てきた気がする。
亀頭の先端を舌でちろちろ刺激して、含んで、手指全体で扱きながら唇でも扱いて。
我ながら拙い、と思いながら、南井はできるだけの事をしてみた。
正直、南井はそんなに技巧を知らない。
高校の頃、幼馴染みと初めてセックスしてから、何度も抱かれたけれど、口での奉仕も幼馴染みを喜ばせたくて何度かしてはみたけれど、やはり挿入されての行為の方が殆どだった。
それから直ぐに番の解除があり、それ以降は誰との性交渉も持たなかったから、大人ぶって手伝うと言った割りには経験もテクニックも持ってないのだ。
だから、自信は無かった。
本当に、切羽詰まった村上を助けてやりたかっただけだった。
なのに村上は、そんな南井の唇と舌に悦んだ。
もう3度は、南井の喉は村上の精液に灼かれた。
「そんなの、飲まなくても…。」
と村上は言ったが、飲めば嬉しいと南井を抱きしめてくれた。
南井の喉奥に射精して、上気した村上の顔には壮絶な色気が乗り、性欲なんかとうに枯れたと思っていた南井の下半身迄熱くなって反応してしまっている。
村上の匂いも濃くなる一方で、それにも誘惑されている。
締まった腹筋、厚い胸板。
極限迄興奮していても、南井を大切そうに抱きしめるしなやかな筋肉を纏った長い腕。愛しむように南井を見つめる、誠実そうな黒い瞳。
(ああ、彼は危険だ…。)
南井は絆されてしまいそうだった。
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