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1.遺品整理
今日は夫と共に実家に来ている。この家に入るのは何十年振りだろう。実父は三年前に亡くなり、ひとりで暮らしていた実母も先日亡くなった。相続人は私ひとり。当然この家も私が受け継ぐことになるのだが、私たち夫婦はもう既に持ち家だ。娘に譲ることも考えたのだが、都会のマンション暮らしに慣れた娘に言わせれば「そんな古い家もらっても困る」だそうで処分することにした。更地にして売れば幾ばくかのお金にはなるだろう。エアコン以外の家電は既にリサイクルショップに買い取ってもらっている。真夏の作業なのでエアコンの取り外しは最後にしてもらうことになっていた。不要な家具も引き取ってもらう予定なのだが如何せん何年も住み続けた家だけあって処分しなければならないものが多く結構時間がかかっている。だがそれも今日で方が付きそうだ。
「それにしてもまぁどうしてこういうデパートの包み紙やら紙袋やら全部とっておくのかしらねぇ」
「ま、昔の人ってそうなんじゃないか?」
二人でいらないものをゴミ袋にどんどん詰めていく。
「ああ、書棚の本も処分しなきゃね。あなた読みたい本があったら持っていってね」
そう言って書棚の本を取り出すと折り畳んだ画用紙が滑り落ちた。
「聡子、なんか落ちたぞ。へぇ」
振り向くと夫が画用紙を広げて何やら感心している。画用紙の裏には五年三組 高橋聡子、と拙い字で書いてあった。
「まぁ、懐かしいものを。小学五年生ってことは、四十年以上前に描いた絵ね」
「上手いもんじゃないか」
「確か夏の思い出を描きましょうとかいう宿題の絵よ」
近所にある神社で行われる夏祭り。その様子が色とりどりのクレヨンで描かれている。
「昔はこういう絵を描いてたのか、意外だなぁ」
「そう?」
「うん、だって今の聡子が描く絵ってどっちかっていうと暗くないか? でもこの絵は明るい色が多いだろ?」
「子供の描く絵なんてみんなそんな感じなんじゃないの?」
私は趣味で油絵を描く。そして確かに暗い色味の絵が多い。
「楽しい思い出って感じの絵でいいじゃないか。待てよ、ってことは今は楽しくないってことか?」
おどけた様子で夫が首を傾げる。
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