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2.奈津美
奈津美は異父妹。母は二十歳の時に結婚し二十三歳で私を産み離婚した。離婚の理由は知らない。その後私が四歳の時に再婚、翌年奈津美が産まれた。
「今日から私、お姉ちゃんになるんだ」
奈津美の小さな小さな手を握り誇らしげな気持ちで呟くと、両親は笑顔で頷いていた。だが幸せな時間は長くは続かない。当初それなりに私のことを可愛がってくれていた義父だが実子である奈津美が産まれると徐々に態度が変わっていった。血を分けた子供の方がかわいいのは仕方のないことかもしれない。だが、母までが私に対してつらくあたるようになっていった。子連れでしかも自分が三歳年上であることを引け目に思っていた母は、夫との子供を産むことによりようやく自分の居場所を見つけたのかもしれない。そこに私は不要だったのだろう。暴力などの積極的な虐待があったわけじゃない。でもまるで空気みたいにして扱われるのはある意味暴力よりも性質が悪かった。いつしか私は思うようになる。私はもうこの家の子じゃないんだ、と。
奈津美との仲も徐々に変わっていった。お姉ちゃんと呼んで慕ってくれたのはごく幼い時だけ。次第に私のことをババアと呼びまるで奴隷のように扱うようになった。しかも平気で蹴ったり殴ったりしてくる。小さい頃は適当にいなすこともできたのだが、ぶくぶくと太った奈津美は力も強く小学生ぐらいになるとその暴力は耐えがたいものになっていった。
「もう、いい加減にしなっ!」
一度そう言って頬を軽く叩いたことがある。奈津美は一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、火がついたように泣き始めた。慌てて謝るがすぐに母がその声を聞きつけて飛んでくる。
「ママ、ママ、奈津美なぁんにも悪いことしてないのにお姉ちゃんがひどいことするの」
こういう時だけ奈津美は私のことをお姉ちゃんと呼ぶ。母は無言のままいきなり私の頬を全力で平手打ちした。顔の左半分がジンジンと熱く耳がぽーんとする。
「今度こんなことしたら追い出すよっ!」
母は奈津美の手を引きリビングから出ていく。チラリとこちらを振り向いた奈津美は勝ち誇ったような表情で真っ赤な舌を突き出していた。
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