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エピローグ
ふと思い立ちアルバムから奈津美の写真を全て剥がすとビリビリに破いてゴミ袋に放り込む。そしてもう一度お祭りの絵に視線を落とした。
(川に落ちた奈津美はこの黒い金魚みたいにアップアップしてたんだろうな)
その様子を想像すると何だか愉快だった。ぷかぷか浮かんだり沈んだりしながら流されていった妹。そっか、この黒い金魚は私であり妹なんだ。妙にスッキリした気分で再び画用紙を折り畳み、鼻歌を歌いながらビリビリに破いてゴミ袋に投げ入れた。小さな棘のように心に刺さっていたあの夏の思い出と共に。換気のため開けていた窓を閉めると蝉の合唱が遠のいた。もうこの家に立ち入ることはない。あとは業者に任せてある。数日後には両親と奈津美の思い出が詰まったこの家もやがて取り壊され跡形もなくなるだろう。そう、これでようやく私はこの家から本当の意味で離れられる。今日から私は自由なるんだ。
「さよなら、奈津美」
ゴミ袋の口をしっかりと縛りエアコンのスイッチを切ると、私は夫を呼び出すためエプロンのポケットからスマートフォンを取り出した。
了
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