隣で咲く笑顔

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 ***  自分で言っていても悲しくなるが。私は、お世辞にも美人というわけではない。背ばっかりひょろひょろに伸びて、女らしさは全然なくて。ついでに出るところも出ていないもんだから、私服で外を歩いていると男の子と間違われることもあるくらい。咲良、なんて女の子らしい名前とはまったく似てもにつかない。  対して、未空は昔から小さくて、可愛くて、まるでお人形のような女の子だった。お淑やかだし、勉強もできるし、声も鈴が鳴るようだし――まさに、何もかも私とは正反対。  だからこそ、多分ウマがあったのだろう。人間、正反対の方が欠けた場所が上手に埋まるなんてこともあるものである。お互い、自分ができないことは相手ができて、相手ができないことは自分ができるという関係だった。うまく補い合えるとでも言えばいいのだろうか。  できれば高校も大学もずっと一緒の学校がいいねえ、なんて語ることも少なくなかった自分達。まさか中学の段階で、こんなに気まずい状態に陥るだなんて思ってもみなかったのだ。 ――ど、どうしよう。  はっきり言って、私は恋愛というものをまともにしたことがない。多分、異性愛者ではあるのだろう、というくらいの認識でしかない。有名なタレント事務所の男性グループを見て歓声を上げることもあるし、女性向け乙女ゲームのキャラをかっこいいと言うこともある。  女性同士の恋愛に、特別な嫌悪感があるというわけではないが。どちらかというと、まったく想像もしていなかったというのが正しいのだ。少なくとも、自分とは完全に遠い世界だとばかり考えていたのである。  それこそ、女の子が好きな女の人だけのバーがあるとか。  そういうお店に通って、時には女同士でちょっとえっちなことをする人もいるのかも?とか(女同士でナニをどうするのかなんてまったく想像もつかないが)。まあ、そんな少々不謹慎だったり偏っていたりする想像を、まったく自分とは関わりない世界として想像することがある、くらいのものであったのである。  まさか己が、当事者になる時が来ようとは。  それも小学校の時からの仲良しである、未空相手に。 『へ、返事はいいから。……あたしが気持ち、伝えておきたかっただけだから、気にしないで』  咲良が固まっていると、彼女はそれだけ言ってさっさと家に帰ってしまった。それがつい、昨日のことである。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加