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「お願いします、その、未空のこと気持ち悪いとか思わないでほしいです。本人は真剣だったと思うので」
放課後の、生徒指導室。
全てを話した最後に、私はそう言って先生に頭を下げた。彼女の告白にきちんと答えていない自分がどのツラ下げて、とは思ったけれど。
「……なるほど、話はわかったわ」
吾妻佳世先生。五十二歳、ベテランのおばちゃん先生である。おばちゃんと言っても、いつも髪も綺麗におだんごにしているし、化粧もばっちり決めていて歳よりもずっと若々しく見える人だ。なんと五十歳で結婚したというツワモノでもある。恋をするのに、年齢も性別もいらないのよ、と。彼女が前にそう語っていたからこそ、私は話を聞いて貰おうと思ったのだった。
「それで、まず先生の考えを言う前に訊いておきたいのだけど。……貴女は、どうしたいのかしら?」
「え」
「新座さんに告白された、羽岡さんは。彼女とこれから、どうしたいのかということよ」
新座、というのが未空の苗字。羽岡、というのが私の苗字である。
「……私は、その」
苛立つことがあったのは、事実。それでも、私にとって未空が大切な友達であることに変わりはない。これからも、ずっと一緒にいたい存在であるのは事実だ――友達として。
「今までと、同じように。友達でいたい、です。こんなことで壊れてしまうなんて嫌だし」
「こんなこと?」
「はい。……その、ぎくしゃくするのは未空だってわかってたはずなのに、何で告白なんかしたのかって理解できなくて。ずっと一緒にいられるっていうなら、友達でも良かったじゃんって思うんです。だって、私が女性同士の恋愛を気持ち悪いって思う人だったら……それでごめんなさいって言ったら。私達、友達としても終わっちゃうじゃないですか。未空はそれを考えなかったのかなって。幸い、私はそういうタイプじゃなかったけど、でもまさか女の子で、しかも未空からコクられるとか思ってなかったからもう大混乱だし、どう接すればいいかわかんなくなっちゃって……」
「そうね」
先生は、頷いた。
「では、訊くけど。それを、新座さんがわかっていなかったと思う?」
「!」
鸚鵡返し、ではあった。でも私ははっとしたのである。てっきり、そういうリスクをまったく想定していなかったのでは、そこまで頭が回っていなかったのではとばかりに思ったからだ。
しかし、実際未空は私よりも成績はいいし、ちょっとしたことでも機転もきくし、空気も読める女の子である。――果たして、私でもわかるようなことを、事前に想定することができなかったなんてことがあるだろうか。
「……関係が壊れても、恋人になりたかったってこと?」
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