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「先輩が卒業してから、だんだん、連絡が取れなくなって。もう、付き合ってはいないんだと、思う」
「自然消滅、ってこと?」
「たぶん、先輩の中ではもう、終わってる」
うちはもう、元カノなんだろうな。だから、あんな動画公開してうちが傷ついても、先輩は何とも思わないのかな。それか、もしかしたら翼先輩は、サイコパスだったのかな。
「あとで消すからって、言ったくせに……っ」
重く腫れたまぶたに、また涙が滲んでくる。
鼻をすすって紙ナプキンで涙を拭いたうちに、杏ちゃんが聞いた。
「あとで消す、って?」
「うん……先輩がそう言ったから、うち……」
「そっか……」
「ひどいよね」
「そうだね。そんな約束信じてあんな動画撮らせるなんて、ひどい」
だよね、先輩ってひどいよね。そう考えてから。
ん? って、うちは顔を上げた。
杏ちゃんは、うちをまっすぐ見てたけど。怒ってるみたいな、厳しい目をしていて。少なくとも、同情してる顔じゃなかった。
「うちが、悪い……の?」
震える声でそう聞いたら。杏ちゃんはギュッと顔をしかめてから、聞き返した。
「悪くないと、思うの?」
「だって……」
杏ちゃんなら断れるの? ノリ悪いなって思われるかもしれないのに? 「あとで消すから」って彼氏に言われて、信じてあげないの? 好きな人を信用できないなんて、そっちの方が悪いことじゃないの?
「『おれのこと信用できないわけ?』って、言われたんだもん……」
「じゃあさくらちゃんは、『絶対ケガしないから大丈夫』って彼氏サンに言われたら、ビルの屋上から飛び降りるの?」
一息に、強い口調でそう言ってから。杏ちゃんは長いため息をつきながら、頭を下げた。
「小学生みたいなこと言って、ごめん」
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