「あとで消すから」

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 うちはなんだか、猛烈に悲しくなった。杏ちゃんが小学生みたいなことを言ったのは、うちが小学生みたいだと思われたからじゃないのかな、って。  でも、だって、じゃああの時どうしたらよかったのか、今どうしたらいいのか、うちには全然わからないんだもん。 「うちのこと、バカなやつって思ってるよね……?」  さすがに「うん」とは言わないだろうけど。杏ちゃんのことだから、「そんなことないよ」なんてベタな慰めも出ないだろう。  反応の予想がつかず口をへの字にしてにらむに、杏ちゃんは自分のスマホを差し出した。 「一枚しかないけど、これ、見て」  またあの動画かと思って、一瞬身構えたけど。画面に映っていたのは、女の子の自撮り写真だった。  今よりちょっとだけ顔の丸い杏ちゃんが、腕を目いっぱいのばして撮った、横向きの上半身。片手で捲り上げたシャツの下に見えるお腹に、うちの目が釘付けになる。 「これ……」  驚いて目を上げると、杏ちゃんは曖昧に微笑んでいて。 「中三のときの、私」  そう言われて思わず二度見するけど、どう見ても。  そのお腹は明らかに、普通じゃなく、膨らんでいた。 「産んであげられなかったんだ、いろいろ、あって。かわいそうなことしたし、私バカだったなって思ってる。  だから……って言うのも変かもしれないけど、私はさくらちゃんのこと、バカなやつだなんて思ってないし、思う資格もないんだ」  杏ちゃんは、スマホの画面を自分に向けて。 「誰にも言ったことないんだけどね、実は私、お腹の赤ちゃんのこと、さくらちゃんって呼んでたんだ」  一枚しかないというその写真を見つめて、痛そうに、愛しそうに、目を細めた。 「だからなんか、放っておけなくてさ」
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