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……どれくらい時間が経っただろう。
あの甲高い声は聞こえなくなり、愛しい人の優しい声が部屋に響いた。
「急にごめんな。知らない人が来てびっくりしたよな」
びっくりしたから逃げたんじゃない。嫌だったから。
「あの人は俺の大切な人なんだ」
知ってる。だから私はあなたの『特別』にはなれなかったんだもの。
「だから少しずつでいいから仲良くしてくれないか?」
嫌って言ったらどうするの……?
「お前とはこれからずっと暮らしていくから、仲良くしてほしいんだ」
ずっと暮らしていく……。
その言葉に反応して、ゆっくりとベッドの下から顔を出す。
すると彼は嬉しそうに微笑んで、優しく持ち上げてくれた。
腕の中に包まれている感覚と、体中に感じる彼の熱が心地よい。
そっと頬ずりすると、彼も大きな手で撫で返してくれた。
「実は近々彼女と一緒に住もうと思うんだ」
え……?
突然聞かされた衝撃の事実に目を見開く。
と言っても、猫だから彼には変化が分からないと思うけれど。
「結婚することになったんだ、俺たち。家族になるんだ」
嫌だ嫌だ嫌だ……。
何度も訴えるけれど、「ニャー」という鳴き声しか出てこない。
「どうした? 喜んでくれてるのか?」
そんなわけないじゃない。
「大丈夫。お前のことも大切にするから。一緒に幸せになろうな」
何度も自分のものにしたいと思った微笑みが、今こんなに近くにある。
だけど――
ああ、私特別な『存在』じゃなくて、特別な『人』になりたかったんだ――。
もう一度願ってみたけれどちっとも変化はなくって。
ギュッと抱きしめられた温もりだけが、体中に痛いほど伝わった。
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