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4:囚われるな
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『貴方を落とした望月 臣は金の望月 臣?それとも銀の望月 臣?』
綺麗な女神様が優しい笑顔で質問してきた。
女神様の両サイドに金の臣は私服で眩しいほどに爽やかな笑みを浮かべていて、銀の臣はスーツ姿で、初めて臣に会った時と同じ格好だった。
初めて出会ったのは銀の臣だけど…どっちの臣も相変わらず格好良くてキラキラとしたオーラが止まらない。
『どちらも格好良くて選べないんですけど』
『では、黒の落間 仁?』
『は?』
黒の落間 仁って言ったか?
すると女神様はいなくなり、場面が仁の部屋に切り変わった。そしてあの日の夜の日のように辺りは薄暗く、ベッドの上に居た。
仁が手を伸ばしてきて首を沿って頸に手を当てながら、目の前の仁の目に吸い込まれてゆき…
ガバッ
「っ!!」
夢の中で我に返った途端、バクバクと心臓が鳴ったまま起き上がった。周りを見渡すして自分の部屋なことに安心して胸をなで下ろす。
夢にまでも出てきやがった。何だよ今の夢は。金、銀からの黒ってなんだよ。女神様も誰なんだよ…。
「夢でもキスされるところかよ」
夢にまで出てくるほど考えてるってことだ。あれから数日経ってるけど仁の目をまともに見れない。あの時の熱のこもった眼差しを思い出してしまう。何が犬に噛まれた、だ。
仁からは変わらず連絡は来る。お互いどうでも言い事は言い合っているが、大学で会うと気まずさで目を逸らしてしまう。
大学では菫の出来事を境に女の子と話しているのもたまに見掛ける。寧ろ元に戻ったという方が正しいのかもしれない。本当に切り替えが早くて羨ましいばかりだ。
あのキスの出来事が脳裏に焼き付き、忘れられなくて自分から何も行動を起こしたわけじゃないのに自分一人で動揺だけが続いている。
「アイツ…最悪だ。自分一人スッキリした顔して」
髪の毛をクシャと掻き回していると、傍に置いていたスマホの音に確認すると菫からだった。
『起きてる?今日駅前に九時半集合だよ』
「了解、っと」
菫もあれから至って普通だった。自分が気まずそうにしていると、「聞いたんでしょ?」と分かった口調で冷静に話してくれた。
仁とはどうなのか気になったが、大学ですれ違ったらいつも通りに接しているらしい。
…振り返ったら俺一人だけが冷静じゃなくないか。流石に変だよな。考えすぎか?考えても先が見えないと分かっているのに、脳内でグルグルと同じことを考えてるみたいでしんどい。
とりあえずベッドから起き上がって支度を始めよう。
今日は前からお願いされていた菫のバイトの手伝いの日だ。結局駅の場所しか教えてもらえなかったから何の仕事か分からない。ただ、一つ気になって仕方ないことを言われて嫌な予感はしている。
朝に髭を剃る事と足の毛と腕毛も処理してきてと言われた。
『は!?ちょっと待て、なんで俺がそれをしなきゃいけないんだ?髭は分かるよ、接客とかならしなきゃいけないし。でも足と腕の毛は必要あるか!?』
『…必要だからだよ。ま、まぁ一つ言えるのはスタッフさんは皆いい人達だから!ね!』
怪しさと無理に笑った表情でバシバシと腕を叩く菫に、やると言ってしまったから反論はできない。
…とりあえず剃ったけど、歩くとやけにツルツルする足の違和感が凄い。腕も同じで擦るとツルツルだ。一体俺は何をさせられるんだ。
***
「大和、おはよ」
「おはよ。待たせてごめんな」
「私も今来たところだよ」
電車に揺られて待ち合わせの駅まで着いて待ち合わせ場所には菫が既に到着していた。
すると、菫はジッと腕と足を交互に見渡していた。
「…ちゃんと剃ったぞ」
「流石。わ、めっちゃツルツル!」
菫は目を丸くして腕をスリスリと手のひらで触ってきた。自分以外の人に触られるも何だか変な感触だ。
「こんなにさせてどういうつもりだよ。バイト先は?俺は何をするんだ?」
「すぐそこだよ。早速行こっか!色々準備もあるから」
そう言って足取り早く歩き出す菫に恐る恐る着いて行く。
人通りが多いカフェが並んでいる通りだ。怪しいお店ではないと言っていたけど、人の目につく場所なら…。
「ここです」
そう言って菫がお店の前で立ち止まる。看板の文字を目で追っていくと、嫌な予感が的中して片眉がピクッと動いた。
「…女装……カフェ?」
口から情けない弱った声が漏れたのは仕方のない場所だった。
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