4:囚われるな

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「…俺は、女性が好きですが」 その手の話を振られると思わず、平然を装うように呟くが、心臓が跳ね返るほどドキッとした。 少し間があったかもしれない。不自然な言い方だったかも。変に思われてないだろうか…俺は今どんな顔して言ったのか。 一瞬にして不安に駆られてフォークを強く握ってしまった。 間違いではない。女の人が好きだった事もある。今が臣の事を好きになってしまったけど諦め途中だ。それに今は仁にも感情振り回されてるし。けど、もし男の人が好きかもしれないと言ったとして、ミカさんがどう反応するか勇気がなかった。 必死に自分の中で言い訳を考えていると、ミカさんは俺を見てハッとしたように口を開いた。 「あー、悪い。吃驚させる事聞いて。深い意味は無いから。いつもの調子で聞いてしまっただけだ」 「いや、俺も、別に嫌悪とかそんなんじゃなく…吃驚しまして」 「なら俺が男も女もイケるってことも嫌悪感ない?」 「はい、勿ろっ…そうなんですか!?」 まだ手を付けてなかったパスタに手を伸ばしてフォークでパスタを巻いていると、また手が止まってミカさんに目がいく。ミカさんは嘘を言っているような冗談じみた顔をせずにパスタを食べていた。 初対面なのに冗談で言うわけないよな。と言うことは、そうなんだ。 初めて男女どちらも好きという人と会ったからこそ、様々な疑問や質問が巡り巡ってしまった。 「俺はネコだから、やぁちゃんがタチなら相手してくんねーかなと思ったけど、今話してみたらタチよりもネコの素質ありそうだもんな」 何か凄いことを言われている気がするが、何処からツッコんだらいいんだ。 タチやネコの用語は知っている。臣が好きだと気付いた時からネットで沢山調べてしまったし。遠くから眺めてるだけでもいいと思っていたのに、やっぱり頭の中では男同士ってどうやってするんだろうと興味が湧いてしまった。 それに男同士の致し方を知りたいという時点で、男が好きって事を認めてしまっているようなものだよな…なのに俺は何を引っかかってるんだ。 それより俺はネコなのか?童貞だから入れるという行為をしたことがないから、ネコなのか?という疑問もおかしい気がするが。 それにミカさんもミカさんだ。こんな姿の俺を見て抱いて欲しいと思ったのもおかしいだろ。 それと同時にこんなチャンス二度とないかもしれないと思った。周りに相談出来ない分、聞きたい事を少しでも聞いてみようと勇気を振り絞ってみた。 「ネコってことは男の人に抱かれるってことですよね。女の人も対象になるのに、男の人に抱かれるってどういう気分なんだろうって思って…」 「やぁちゃんって意外とソッチのワード詳しいの?タチとネコの意味分かってるんだ」 恐る恐る聞いてみたが、訝しげに俺を見るミカさんにギクッとして肩を少し揺らした。 しまった、普通の反応だとタチとかネコって何?って聞くべきだったか?なんて思いながら、しどろもどろで必死に答えを探した。 「とっ、友達で男が好きな奴が居るんです!ソイツからちょっと聞いて」 「へぇ、マジか。だから嫌悪感は無いわけねー」 「はは、そうなんです」 架空の人物を作り上げて嘘を吐いてしまった。ミカさんは素直に話しているのに、自分はなんて臆病なんだろうと顔が歪んでしまうのが分かった。 「とりあえず最初は女の子が好きだったけど、ある日飲み屋さんで男が好きって人と出会って、初めて男が好きって奴と喋ってたら何か変に意識しちゃってさ、」 「…はい」 「そしたらソイツと意外と話が合って気が付いたらキスしてたってわけ」 「え!?急にですか!?」 「そう、急に。俺嫌じゃなかったんだよなぁ。そのままホテル直行して相手がバリタチだったから抱かれた、みたいな」 元々女子が好きという事が分からないほど躊躇のない話にぽかんと口を開けてしまった。 「でも怖くなかったんですか?元々異性が相手だったのに、抱かれるって…」 「んー俺が淡白すぎんのかもしれない。抱かれたからって世界が一転する事も無かった。そのあと普通に女の子も抱けちゃったし。結果的に気持ちいい事に弱いんだよな」 「す、凄いですね…」 初対面で今まで女の人しか好きじゃなかったのにも関わらず、抱くんじゃなく抱かれてしまうという“初めて”をいとも簡単に奪われてしまっても気持ちいいで終わってしまったんだ。 その後も前と変わらない生活を送ってたとして、居酒屋との男とはそれっきりなんだろか。 世の中色んな人が居るんだと脳内でグルグル考えた。 ミカさんみたいな人と初めて会ったな。…俺の名前は出さないで架空の友達の相談として話してみるか? 「あの、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」 「俺で良ければ聞くけど」 「ありがとうございます。俺の友達は女性が好きだったんですけど、ある日同性に片想いしてしまって、相手は異性しか好きじゃないって知ってるから気持ち伝えるつもりはなかったみたいなんです。けど、好きな人の友達にその事をバレてしまって、半分脅されたのをきっかけにソイツと相談し合うようになって仲良く…なってるっぽいんですけど…」 「脅されたってのも気になるけど、結果的にそのノンケ友達の男が好きになったって話?」 「あ、いや。そうじゃなくて、ソイツが酔っ払って…その、キスしてきたんです。ソイツは分かりやすく女好きな筈なんですけど、その事も酔ってて覚えてない…らしくて。友達はどう接していいか分からないまま、一人気まずくてやきもきしてる感じです」 「それ、ノンケ男は女好きって事は俺と似ててセックスが好きで男同士って事に興味持ち始めた節操無しか、その相談相手の友達が好きになってしまってこっちに気を向けさせたかったか」 「…結構な女好きなので前者が近いかもしれないです」 今までのことがフラッシュバックした仁の顔に苦笑いを浮かべてしまった。 あの仁が純粋に俺の事を好きになるなんて有り得ないよな。最初に出会った頃に好きになるなと釘を刺したのは仁じゃないか。
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