5:ビターハニーダウト

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「それ言われた俺が吃驚だって。記憶に無いから無意識に口説きにかかってるって事だろ」 「まぁ…生まれ持った性格なんだろうな」 「それもあるけど一番の原因は家族って思ってんだよね」 「家族?」 仁から家族というワードが聞けると思ってもいなかった。物珍しさで思わず仁の方に顔を向けると、仁は先程と変わらず肘をついたまま見据えていた。 「姉と妹が居てさ、小さい頃から女の子にはこうしないといけないんだよって教えて貰ってた。だから女の子には特別扱いしちゃうんじゃないかな」 「へぇ、そうなんだ。お姉さんと妹さんの三人?」 「いや、姉、姉、姉、俺、妹」 「五人!?しかも仁以外全員女!?」 「そりゃ女の子のこと嫌でも沢山知っちゃうって話だよな」 身体を起き上がらせるほど驚愕したが、仁の緩い返事に力が抜けて寝転がった。 なんだか納得だ。仁は女の子に囲まれて生きて来たのか…いやいや、それから女好きに繋がるのもすごい話だろ。 「家族がいっぱいだと賑やかそうだな」 「もう毎日大賑わいなくらい仲良し」 「そうか。いいな。四つ離れた兄貴は居るけど、妹か弟欲しかったな」 「へぇ、そうなの?お兄さん居るんだ。仲良い?」 「うーん、仲良し…なのか?たまに元気かどうか聞き合うくらいかな。あとは顔はよく似てるって言われる」 「え、まじ?似てるの?お兄さん見てみたい」 仁が興味を持ったようなキラキラした目をして見てきたので、少し躊躇しながらもスマホを漁った。 「あった。これ。数年前だけど兄貴が実家を出る直前の写真だ」 そう言いながら仁へスマホの画面を見せると、近くで確かめるように寄ってきた。 「うっわ。めっちゃ大和じゃん。似てるな。ていうか…これ大和?垢抜けてない顔してる。かーわいい」 スマホと今の俺を見比べてニヤニヤしている仁にムッとしてスマホを奪い返した。 「…仕方ないだろ、まだ十六の時だ。俺はいいから仁の家族も見せろよ」 自分の話題を逸らしたくて話を変えると、仁ははいはい。と、仕方なさそうにフォルダを探していて、すぐさま俺に見せてきた。 「これ」 スマホを傾けて見せてくれる前に仁と同様に画面を覗き込むみたいに体を寄せた。 「うわー!美形しかいない!家族全員モデルか!?お父さんとお母さんの血強すぎ!ていうかこの人と顔ソックリだな、何番目だ!?」 写真は見たことがないくらいとんでもなく顔が整った美形集団が写っていた。いつの写真か分からないが、仁は今より少し幼さがあるのに何処か色気があるし華がある。 「そんなに似てる?この人は一番上の姉貴。もう結婚してる」 「マジか…これは全員モテてきた顔してるよ…なんだコレ」 一気に興奮した後は自分との違いに虚しさが襲ってくるだけだった。完全に仁は勝ち組だな。 「なぁ」 「…なんだよ」 「そんなに俺の肩が居心地良い?」 仁の言葉で頭部の違和感に見上げた。興奮のあまり仁へピッタリ近寄って、肩に頭を持たれかかった状態でスマホを見ている事に気付いた。 仁は既に気付いてたのか、真近距離でニヤニヤしながら俺を見ていた。 「うおぉ!?興奮のあまりっ…重いよな、ごめん!」 「俺はそんな柔じゃない。そのまま寝てもいいよ」 打って変わって宥めるような優しい声が耳に届いた。俺にそういう優しい言い方じゃなくて、いつもみたいに強気で冗談じみた声で言って欲しい。 「それだと一生寝れるわけないだろ。もう寝る。おやすみ」 仁の領域から少しでも逃れたくて、背を向けるように寝返りを打った。 「はは。……おやすみ」 背後から小さく笑うような声が聞こえたと思ったら、後頭部あたりにサラッと髪を解くように撫でる感覚に胸がドクンと波打った。 ついさっき仁の手を阻止した事を思い出す。まるで阻止された事を根に持っているかのようにしっかりと触ってきやがった。 なんでこんなに触られただけで心臓が煩いんだよ。そして俺はなんでこんなに仁の事が知れて嬉しいんだ。…違う、仁の事が知れた事も仁が自発的に俺に自分の話をしてくれたのがうれしかったんだ。 これ以上、好きになりたくない。制御しろ。しないと…取り返しのつかないことになる。 言い聞かせるように服をギュッと掴み、目を開けないように強く目を瞑った。 ♢♢♢♢ 「…大和、起きてる?」 あれからどれくらい時間が経過したのか分からない。 もしかしてまだ起きているのかと体を起こして背を向けている大和の顔を覗き込む。大和の顔にかかっている髪を追い払うと、無防備な表情で眠りについていた。 「ずーっと意識してた癖に、もうこれか」 分かりやすく顔に出して頬を染める大和が堪らなくて、思い出してはクスッと笑みを浮かべた。 これでは自分のほうが倍に意識して寝れてないと物語っているのと同じだ。 日にちが経てば経つほど自覚していく感情とは裏腹に、先に寝た大和の寝顔に少し悔しいという気持ちになる。 背中にピッタリとくっつき、背後から抱きしめるように脇の下に右手を入れ込み、左手は腕枕するように首の下へ手を伸ばして抱きしめた。 「いつになったら降参してくれんの。もう限界だからそろそろ俺が攻めてもいい?…ダメ?」 耳元でボソッと呟いても全く起きない大和を優しく抱き締めて肩に顔を埋めた。 あ、やばい。眠くなってきた。でも離れたくないな。また大和怒るだろうなぁ。…まぁ、いっか。寝相が悪いって事にしておこう。 無理矢理な言い訳を考えるほど抱き締めてたいのかと思うと、我ながら面白くて口角が緩く上がった。そして目の前にある大和の頭に唇を寄せ、ゆっくりと目を閉じた。
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