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「…一体何の話かな?」
悪足掻きだと分かっているのに知らないフリをしてみた。もしかしたら鎌をかけてる…なんて願望も込めて。
漸は目を細めて自分のポケットからスマホを取り出し、画面を操作した後に俺の顔の前で見せつけた。
「……は!?いつの間に!?」
「これ、先生だよな?」
画面を凝視すると、自分の見られたくない姿が写っていた。手を伸ばしてスマホを奪おうとするが、俺からスマホを遠ざけた。
こんな時に先生と呼ぶのが嫌味っぽく捉えてしまうのは考えすぎだろうか。
なぜか怒っているような冷たい目付きのまま左腕に目を向けた漸を怪訝に思うが、俺の左手首を掴み上げて何かを見つけるように目を動かした。
「…やっぱりな。同じ所にホクロがある。これに写ってるやつと同一人物だろ。何であんな格好して仁さんと居たんだ?もしかして趣味なの?」
漸はスマホの画面と俺の腕を見比べると、もう見たくない自分自身の女装姿を見せつけてきた。横を向いていたことで腕のホクロが確認出来てしまい、俺だと認識したみたいだ。
スマートフォンの高画質さに嫌気が差す日が来るとは思わなかった。変に誤魔化す事も出来ない状況に諦めるしかないな。
「色々あって友達のバイト手伝いしていただけで、決して俺の趣味じゃない。仁はたまたま会っただけだ」
「本当に?仁さんに何でキスされてた?」
…やたら引っかかってくるな。
まだ納得のいかないような表情で睨んでくる漸を負けじと見返した。
「あれは俺がバレたくないって話をしたから仁の彼女のフリをしなきゃいけない状況だったわけで、本気でするわけないだろ」
「ふーん、そんなに仲良くなっていたなんて知らなかった。しかも今一緒に住んでるんだろ」
「え?何で知って…臣か」
漸は否定する事なく溜息を吐くと、掴んでいた腕の力が少し強くなった。
「この画像消して欲しいか?」
「当たり前だ。絶対に消せよ」
こんなの塾のクラスで面白がる話題になるには丁度いい話題だ。色々と面倒臭いことは避けたい。
「…今度、俺の家に来て」
「………はっ?」
「消してほしければ俺の家に来て勉強教えろ。…一対一で」
漸から耳を疑うような条件に拍子抜けのような声が出た。漸も言うのに勇気がいったのか、その時だけ目を逸らしていた。
「俺が家に行って漸に勉強を教える?塾でじゃダメなのか?」
「塾だと直ぐに他の奴の所に行くし」
「それはそうだろ。俺も皆に教えなきゃいけないし…」
「だからだろ」
ん?ちょっと待てよ、漸と臣は実家に住んでるんだよな?それだと…俺が望月家に行くってこと!?いや、待て待て。気にする所それじゃないだろ、俺!そもそも塾の先生が個人的に生徒に教えるのはダメだろ。
「それ以外にしてくれないか?俺が生徒に個人的に塾以外で教えるのは良くない」
「ダメ。家に来いよ。ここだけの話にしたらいいし、どうしても勉強がダメって言うなら勉強じゃなくてもいい」
「え?勉強じゃなかったらなんの為だよ」
「とにかく!俺と二人きりになるなら、この写真は秘密にする」
「…」
な、なんだよ〜。仁の条件と菫の条件と…次は漸だって?色々と巻き込まれたせいで頭を抱えそうな勢いだ。
でもバラされて話題のネタになっても困る。下手したら授業中も生徒たちにイジられて授業どころでは無くなりそうだ。
「俺のID登録して連絡しろよ」
漸はそう言いながらポケットから出した紙切れを押し付けてきた。前もって書いてたってことは、この条件は本気だと言っていることになる。
「今日中に連絡しなきゃマジでバラすからな」
漸はやってやったぜと言わんばかりに自慢げな顔で去っていった。
なんでこうも拒否権が無さそうなことばっかり俺に来るんだ。とにかくID登録は今の内で登録しておいた方が良さそうだ。
げんなりとしたままポケットからスマホを取り出すと、仁から連絡が来ていた。
『今日の夜ご飯はおいしいハンバーグ♡』
それと一緒にハートの形をした焼く前の合い挽き肉の塊の写真が送られていた。漸との温度差にハートになっているハンバーグの形に口元が緩む。
ハートって。仁はもう家に着いているのか?確か今日はバイトで遅くなるかもって言っていた気がするけど…。
『ちゃんと味見してくれよ。ご飯作ってくれているのはありがたいけど、バイトは終わったのか?』
『うるさいなー、絶対美味いから。今日は雑誌の話だけだから早く終わった。俺の写真も届いたから帰ってきたら見てよ』
『良かったじゃん。ていうかハンバーグ想像したらお腹空いた』
『もう焼いて食べていい?』
流れてくる仁からのメッセージに口角が緩みまくると、追加でメッセージが流れてきた。
『っていう早く帰ってきてほしい口実。寂しいから早く帰ってきてよ』
『先に食べていいよ』と、打とうとしていた手がピタリと止まり、思わずスマホをギュッと握りしめた。そして滑り落ちるように座り込むと、恥ずかしさで手で顔を覆った。
……もうイヤだ、このチャラ男。
寂しいとか言わないで欲しい。早く帰りたいけど帰ったら帰ったで恥ずかしくて顔見れなくなるだろ!
熱くなっていく顔のまま『わかった』と素っ気ない返事を打ち込むのが精一杯だった。
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