6:落とし堕とされ

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バタンとドアの音に反応してゆっくりと目を開けた。 あー、寝てしまった。……あれ、今扉の閉まる音が聞こえたって事は、仁が帰ってきた? この状況を把握しようと下を向いた時、自分が洗濯物を畳んでいる途中だったことに気が付いた。 「……!」 そこには仁の服を皺が出来るほど握った自分の手が見えた。ソファを枕に突っ伏して寝ていたみたいで、仁の服を握って顔を埋めながら寝落ちしていた。 仁との出会いを思い出す。あの時もこんな状態を見られてしまって臣の事が好きだとバレたんだ。こんな場面を見られてしまったら、仁が欲しい、仁の事が好きだ…なんて、そう言っているようにしか捉えられるかもしれない。 顔に一気に熱が集まり、緊張で手が少し震える。そして昔と何も変わっていない自分に嫌悪丸出しに顔を歪めた。 ヤバイって!変態かよ!こんなの見られた…ら。 とりあえず畳んだ洗濯物に隠すように服を畳み、後でもう一度洗濯すればバレない。そう思っていた。 ふとテーブルに目がいくと、寝る前には無かったはずのスマホと、その横には仁の鞄が見えた。 それを見た途端、持っていた仁の服を手から滑り落ちていった。 え、ここに来たのか?ということは仁が今帰ってきた玄関のドアの音じゃなくて…部屋の扉の音? その事実に気付いてしまい息を呑んだ。 「起きたんだ」 仁の声に反応して見上げると、そこには部屋着姿で頭にタオルを乗せて拭きながら近付いて来ていた。風呂場から出てきたようだ。 特に表情に変化はないように見える。けど俺の心臓が破裂しそうなほど居ても立っても居られなかった。 ここにスマホと鞄があるって事は絶対見られているよな。どう思った?気持ち悪いと思った? 色んな不安が襲いかかってくるが、仁は表情を変えずに側へ近寄ると、ソファに深く座り込んだ。 「わ…悪い。寝てた。洗濯物畳んだぞ。戻しておくから」 「ありがとう。けどさ、もういいの?俺の服抱きしめなくて」 寝室にある収納棚に戻そうと立ち上がると、聞こえた仁の言葉に畳んだばかりの洗濯物を全て落とした。 仁の見透かしたような口振りに更に体の熱が一気に上昇した。 「……っ」 「あーあ、折角畳んだのに」 そんな事は今はどうでも良かった。また畳めばいいのだから。けど今は取り返しのつかないことを仁の前でしてしまったかもしれないという不安と何を言われるか分からない恐怖に襲われていた。 仁が近付いて蹲み込むと、ふわりとシャンプーの匂いがする中、落とした服を軽々と拾い上げた。仁の目を見るのが怖くて視線に下を向いて目を逸らしながら口を開いた。 「…ごめん」 この場から逃げたくて仁が拾ってくれた服を仁の手から取り返した。仁の目を見ずに横を通り過ぎて寝室に逃げ込もうと思うとするが、その行動も仁の手によって阻止された。 「え、な…っ」 「まさかこの状況でも逃げようとしてんの?」 右腕をグッと力強く捕まえてきた仁を見上げると、力強く見つめる納得いかない仁の表情が見えた。想像していた軽蔑するような顔とは違っていた。 自分がどんな顔をしていたのか分からないが、目が合った仁は深く溜め息を吐いた。 「あんなに俺の服を愛おしそうに抱き締めて無かったことにしようとしてんの?流石にソレは見逃せないな」 「…っ!…ち、違う」 「何が違うの?」 仁は持っていた服をもう一度奪うと、服の事はどうでも良さそうにテーブルに戻した。それから両腕を掴み、逃げないように俺の正面に立ち目を合わせる。 「あんな事してさ、俺の事どんだけ好きなの?」 「…っ!」 好きと聞こえた言葉に耐えきれず、燃えあがるような熱が全身に巡ると、どんどんモヤモヤとした嫌な気持ちでいっぱいになった。 「こんな事して本当にごめん。気持ち悪いよな」 これ以上嘘を吐くのは苦しいと思い、ボソッと小さく呟いた。 「別に気持ち悪いなんて思っても無いし、むしろ逆かな」 「…へ?そう、なのか?」 仁の返ってくる反応に身構えるが、想像していた罵倒されるような言葉ではなく、柔らかく微笑むような態度と言葉だった。 「可愛すぎてあのまま食べちゃおうかなって思った」 「…はっ?」 仁は掴んでいた手首を口元に持っていくと、軽く甘噛みするように歯を立てていて、視界から見える行為と手元の擽ったさでピクッと身体が反応した。 何故こんな行動と言葉を掛けてくれるのか、理解が追いつかない。 「…臣は大和の行動に気付かないままだろ。けど俺は気付いたし、そんな大和を見逃すつもりもない。でも気付くだけじゃ足りないんだよね。ていうかあんなもん見せられて俺の限界突破って感じ」 手首を噛んだ所を慰めるように優しく唇を当て、熱を帯びた目線のまま見続けた。 仁は何を言っているんだ? 信じられないものを見ているのかのように眉間に皺が寄る。 良い風に解釈していいと言わんばかりだ。冗談に聞こえるわけがない。友達同士でそんな言葉の後に手首にキスするなんて変だ。 そう思うと今までの仁の行動が不自然に思えてきた。 様子を伺うように見ていた仁は掴んでいた両手から手を話した。そして顎に手を添えて上に向けると、少し角度を変えて顔を近付けてきた。 信じられない出来事が唇に当てられたキスの感覚で確信に変わった。 仁は惜しむように唇から離れると、嬉しそうに口角を上げたまま頰を大事に撫でてきた。 「二回目のキスはちゃんと目が合ったな」
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