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唇を押さえ付けるまでは生きている中で味わった事はある。けど舌が入ってくるというのは今まで無かった。
仁は慣れたように覚束無い舌を絡めとると、慣らすように少し舌を吸ったあとに舌同士を絡ませてくると、クチュッと混ざり合うような音に恥ずかしさで眉を寄せた。
自分の気持ちを見透かしているのか、少し屈めてながら後退りした自分を逃がさないように腰に左手を回した。
仁の全ての動きに翻弄されてあちこちが熱い。
「…ふっ、ぅ」
ゆっくりと唇を離してきたことで目を開けて仁を見上げると、溢れ出るほど色気と恍惚に満ちた表情のまま目を細めた仁と目が合った。
な、なんて顔で俺を見てるんだよ。
仁にそんな顔をさせてしまっていることで自分がどんな顔をしているか分からないが、仁は物足りなさそうにもう一度軽くキスをして離れた。
その一連の流れに燃え尽きてしまうのではないかと思うくらい熱くなっている顔のまま手の甲で唇を押さえた。
仁は俺を見て満足そうでにんまりと笑みを浮かべていた。
「少しだけエッチなキスしちゃったな」
「…少しどころじゃないだろ」
仁は部屋の電気のスイッチの所まで足を運んで電気を付けた。つけた後はすぐに目の前に戻ってくると、俺の腰に手を回して誘導するように歩き出した。仁の動きを抵抗せずに何をするのか様子を見ていると、ベッドの前に辿り着いてゆっくり肩を押してきた。
勢いよく倒れ込まないように頭に手を回して優しくベッドに寝かせた。そんな一つ一つの行動にドキドキするが、そんな仁にベッドに押し倒されたんだと気付いた。
股の間に右足を入れ込むと、両手首を掴んでベッドに押さえ付けた。
「大和、もっとエッチな事しようか」
「…は?…えぇ!?今から?」
電気が点いた事で目を細めて少しだけ口角を上げた仁の表情がしっかりと見える。きっと自分の隠しきれないくらい赤くなった顔も丸見えだろうと思っても、仁の発言に目を丸くして固まってしまった。
「この状況で、はい、おしまい。は無いんじゃない?折角俺らの気持ちが繋がったのに?手厳しい。ちょっとだけ、ダメ?」
子供っぽく無邪気に駄々をこねる仁は眉を下げて胸に倒れ込んできた。
「手厳しいって…よく考えろ。仁が大丈夫なのか?今まで女の子だったのに?…俺だよ?」
「うっわー、大和君よ。さっき言ったこと全然伝わってないんだ。俺が中途半端な気持ちで口説いていると思ってた?そうかそうか。なら沢山好きって言いながらエッチな事したら伝わるよね」
「あ、ちょっ…待て!違うんだ!ごめん!分かったから、ちょっと待って!」
不貞腐れた顔をしながら服の下に手を入れてきた。腹に仁の手が触れた途端、一線を越える現実を実感で焦って仁の手を掴んだ。
「まぁ、無理強いすんのも良くないか。大和はエッチな事するの嫌い?因みに俺は大好き」
「う…嫌いじゃないよ。寧ろ好きっていうか、その、そういうの同じ男だから分かるだろ!」
「はは、うん。そうだよな。分かるよ」
「でも本当は今の経緯だけでも胸いっぱいで夢みたいなんだよ。だからこれ以上な事したら俺…」
「…俺?」
「こんなに幸せ感じて、ついでに心臓も俺の身体についていけなくて、明日死ぬんじゃないかと。…ほら、よく映画やドラマで見る死亡フラグというやつ?」
「は?…アハハ!何それ!はー、本当に可愛いな」
仁はケラケラと笑いながら子供をあやすように頭を撫でてきた。
「う、うるさいな。こっちはお前みたいに余裕があるわけじゃないんだよ」
「何言ってんの。俺も余裕があるわけじゃないよ。大和と一緒」
仁は手を自分の左胸に持っていった。同じように鼓動が早くなっている仁の心臓の音を感じると、自分の胸の奥がツンと痛くなるような感覚になった。これは嫌な痛みではない、嬉しくて心地の良い胸の痛みだ。
「本当に嫌ならギブって言ってくれたら止めるから。大和が欲しい。…ダメ?」
仁の手は自分の頬に甘えるように擦り付けるように持っていった。それはまるで自分の頬を撫でてほしいとおねだりしているようにも見える。
卑怯だ。まるで仁の表情に弱いと分かっていてやってるみたいだ。こんな状況でそんな甘えたような声や表情で見下ろされたら断れるわけがない。可愛いって仁は言うけど、仁の方が可愛いんじゃないかと思う。
「分かったよ。…ギブって言ったら止めろよ」
「わーい。大和、大好きだよ」
すると、甘えた表情からコロッと変わって、分かりやすくニヤリと不敵な笑みを見せた。
「あ、言い忘れてたけど条件がある」
なんか騙されたか?と言い詰める前に「…なに?」と返事をする。
「俺は大和に気持ちよくなってもらわないと満足しないから。だから絶対イかせるから宜しく」
「何だそれ。俺は仁が気持ちよかったらいいから。あ、俺がその前にギブって言えばいいのか」
「それダメ。しかも気持ちよかったら嫌だって思わないでしょ?だからそれは無効でーす」
「滅茶苦茶なギブだな!無効とか聞いてないし、ズルい!ズルすぎる!」
「ふふ。でもさ、俺がズルイって最初から分かってただろ?そんな男に惚れたのは何処の誰だろうな」
「…っ」
本当に手の上で転がされているな、俺は。既にもうギブアップと言いたい気持ちだ。
もうどうにでもなれという気持ちと、自分の負けだという気持ちのまま体を少し起こして仁の唇にキスをした。
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