今日から私は女子小学生

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その日の朝、いつものように、スーツにネクタイでサラリーマンとして電車に乗り通勤していた。満員で混雑してすし詰めで体がぶつかりあった。女性とぶつかると痴漢の疑いもかけられるので、注意していた。人の群れで外の景色もよく見えない。閉塞感で息苦しくなった。車両に閉じ込められた感じであった。既に通学時間は過ぎているので、小学生、中学生、高校生は一人もいない。一駅の辛抱とはいえ、いつもと同じ状況にうんざりした。身動きもできず、拷問に近い。車両内で良い音楽でも流れないか、何かサプライズでも起こらないか、等と夢想していた。 人の隙間からホームが見えなくなった時、その異変が起こった。私の体が急に小さくなった。気がつくと子供になっていた。スカートで制服を着ていた。手に持っていた鞄はなく、背中には赤いランドセルを背負っていた。小学生だ。私は小学生の女の子に変わってしまった。周りの乗客は気がつかない。私はうろたえた。パニックになりかけたその時に、周りの大人が次々に変身をはじめた。映画を観ているようであった。女性は小学生の男の子になり、男性は小学生の女の子になった。皆、制服を着て女子はスカートで赤いランドセルっを背負い、男子は半ズボンで黒いランドセルを背負っていた。元の年齢に関係なく、皆同じくらいの年の小学生になった。立っている人、座席に座っている人も全員その車両にいる人は小学生になった。 夫婦のカップルは、小学生のカップルになり、お互いに相手を見て、慌てふためいていた。夫であった女の子が妻であった男の子に、落ち着けと叫んでいた。母と娘の二人連れがいて、二人とも同じ年くらいの小学生の男の子になっていた。落ち着いて、と叫んでいるのが、母親か娘かはわからない。そのうち周囲がパニックになった。小学生になった人を見て、叫ぶ人々がいた。自分が小学生になったのを見て悲鳴をあげる人々がいた。子供の甲高い声が響いて、車両内は阿鼻叫喚となった。皆、どうしたらよいかわからない。そもそも自分が異性の小学生になったことを受け入れられない。うずくまって泣く男の子もいた。ドアをたたく女の子もいた。無闇に走り回る小学生達は、衝突して床に倒れた。私は今日からその中で、何故か私はこれは夢の中のことだと思い、目が覚めたら元にもどっているに違いない、と平静になってきていた。 そして列車は次の駅に着いた。既に連絡がいっていたのであろう。駅員が大挙して待っている。しかし、小学生は一人もいないので皆あっけにとられた。乗客はおりて、それぞれ目的地に向かった。私も下車したが、夢と思った不思議なことはしっかり覚えている。私以外の全ての人が、異性小学生化の記憶を失っていた。そして何もなかったかのように下車した。駅員が問題の車両に入ってみても何も起こらなかった。そこで、乗客がその車両に次々に乗り込んだ。しかし、何も起こらない。列車を停めるわけにはいかないので、そのまま発車した。不思議な一駅の時間であった。いつもはすし詰め状態で疲れ切って列車に乗っているが、今日は素晴らしい冒険を楽しんだ気分であった。一時的なら、こういうファンタジーも起こっていいのではないか、と思った。素晴らしい魔法である。本当に夢であったかもしれない。不思議さに乾杯。
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