腰痛の正体

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 なだめるようなタイミングで運ばれてきたサラダを、フォークをわしづかみにし、須貝さんはもしゃもしゃとほおばる。食べている間は静かな人なんだな、となんとなく他人事みたいに遠い目をしてしまった。 「あたしだって、腰痛になんかなりたくてなったわけじゃないんだから。染田が腰痛でしばらく病院通いするなんて嘘つくから、本当かどうか真意を定かにしたくて呼び出しただけなのに……」    ああ、ようやく本題に入りそうだな。  私はそっと身を乗り出し、やってきたエビグラタンをむさぼりながらしゃべる須貝さんの話に耳を傾けた。 食べている間は静かな人だということは、返上することとする。 「立ちっぱなしでめまぐるしく働いているならともかく、座っていて腰痛とか普通ありえないじゃない?人事も染田には甘いから『じゃあフレックスでオフピーク通勤にし、なるべく負担がかからないようにしましょう』なんて取り決めてさ、ずるいわよね」 「はあ……」  同じ姿勢をずっと続けていたり、身体に合わない椅子とかに座っていれば腰痛になる人もいたりするとはネットか何かで読んだ記憶がある。 「だからさ、私が社員を代表して染田が本当に腰痛かどうか確かめてやらなくちゃいけないって思ったのよ。だって、詐病って言葉があるぐらいだから嘘をつかれて本当に悩んでいる人が矢面に立たされるなんていう、ずるいことになったら大変じゃない」  私からすれば疑いにまみれたゆがんだ正義感ではあるけれども、須貝さんにとっては「自分は勇気ある行動をした」という認識になっているらしい。 「誰だってこんなことやりたくないでしょお?だから私が代表して、備品倉庫に染田を呼び出したわけ。品出しって名目でね。そうすれば怪しまれずに、周囲にも気を遣わせずに行うことが出来るでしょ?」  水を得た魚みたいに、さながら武勇伝よろしく須貝さんは語り出す。  口元には、エビグラタンのホワイトソースがこびりついていた。 「まず、本当に腰痛かどうか訊いたわけ。まあ本当ですって、染田は答えたけれど目が泳いでいたからどうも怪しいなって感じて……だから確かめてやるって思って、すぐ近くにドアストッパーにつかう傘があったから……まあ、あとは言わないでもわかるでしょお?」 「いや、傘をどうしたんです?」  嫌な予感はしたものの、敢えて問うことにする。
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