第二話 浮気、ダメ、ゼッタイ

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第二話 浮気、ダメ、ゼッタイ

 次男のラムと四男のバニラ、続いて真ん中の双子のフウガとコウガがいつもより早く出たところで、リビングにはちゃぶ台を囲む四つ子と、テレビの前で寝っ転がる自宅警備担当の三男のミントと、今日は騎士団も非番のようでキッチンで洗い物をして家事に専念するベリーの六人。  ちなみにサラダは半分以上食べたことでもう勝った気になった。残りは隣の兄、ユウキにこっそりと食べてもらおう。  ミントが寝転びながら腕を伸ばしてリモコンを手に取ったので、アイスケはハッとした。 「ミント兄ちゃん!! チャンネル変えんなよっ!」 「えー、でもさっきからおんなじニュースばっかりでつまんないじゃん」 「このあとの占いがよく当たるんだよ!」  ふ〜ん、とミントは覇気のない返事。  朝のワイドショーでは、人気若手芸能人の浮気発覚のニュースで持ち切りだ。  アイドル並みにイケメンで女性ファンも多いので、SNSでも炎上しまくってるとか。 「どこにでもいるのね、浮気野郎ってのは」 「ひどいよね〜! あんなにキレイな彼女さんがいるのに!」 「やっぱり人も悪魔も一途じゃないとね」 「ユウキ兄ちゃんの言う通りだな! 浮気、ダメ、ゼッタイ」 「「「「浮気、ダメ、ゼッタイ!!」」」」  うんうん、と玩具の赤べこみたいに何度も首を振る四つ子に対して、ミントはぽかん、と呆気に取られたように口を開いて目をぱちぱちさせる。 「あの、さ………こんなこと言うのもアレだけど………」  うんうんうん、と揃って首を振る四つ子に、ミントは顔だけ振り向いて言った。 「アイちゃんたち、浮気でできた子じゃん」  ギクリ、と四人の首筋が凍りつく。  しいん、と会話の消えたリビングからは、テレビからの下品な笑い声だけが響いた。  やってしまった、というようにミントは手を口に押さえる。 「あ…………あ…………」  四つ子はしばらく魂を引っこ抜かれたように放心状態だったが、滝に打たれるみたく小刻みに震えるアイスケが、ふらふらと立ち上がって、がしっ! とミントの胸ぐらを掴んで食いつく勢いで迫った。 「なっ、なっ、何!? 俺らの母ちゃんってできちゃった婚だったの!? 昼ドラみたいなドロドロな展開があったの!?」 「お、おおお落ち着いて」 「落ち着いてられるかぁ!! アンタから爆弾発言飛ばしてきたんでしょーが!!」 「そうだよぉ!! ユメたちの硝子のハートが粉々だよ〜!!」 「ただでさえ腹違いという複雑な事情を飲み込んだうえにその追い打ちはひどいよ!!」  四つ子の兄姉(きょうだい)、ココロ、ユメカ、ユウキも動揺を隠せずにいた。 「できちゃった婚なの!? できちゃった婚なの!?」  アイスケはミントの胸ぐらを鷲掴みにして頭ごとぐるぐるに振り回す。 「い、いや、できちゃう前に結婚してたと………思うから。たぶん」 「めっちゃあやふやじゃねーか!!」 「だって当時は俺も子供だったし………」 「子供でも分かることはあるだろ!? なぁ!! 母ちゃんってどんな人なの!? 美人!? 可愛い系!? 芸能人だと誰に似てる!? っていうか人間なのに何で魔王と!? 玉の輿!? やっぱり俺の守銭奴は母ちゃん似なの!?」  機関銃をぶっ放すように質問攻めするアイスケに、焦点が合わなくなるほど振り回されたミントはぐるぐると視線を泳がせた。 「うーん…………話すと長くなるから………めんどくさいや」 「教えろよ!! めちゃくちゃ気になるじゃんか!!」 「あ、占い始まってるよ」 「くそぅ! 話逸らすな!」  しかし兄の言葉の通り、待ち侘びていた占いが盛り上がり始めているようだ。  双子座の四つ子はまだ発表されていない。  第一位か、最下位か…………。 『今日の最下位は、双子座のアナタ!』 「「「「ちっ!」」」」 『生死に関わるほど波乱な一日が待ってるでしょう! 忘れないで! 優先すべきは命です!!』 「「「「こわっ!」」」」 『特に恋愛運はトラブル注意!! 浮気や不倫に気をつけて!! 恋人がいない人でも修羅場に巻き込まれる可能性も!!』 「「「「いやああああああああっ!!」」」」 『ラッキーアイテムは、臭豆腐(しゅうどうふ)です!!』 「臭豆腐!! 臭豆腐!!」 「臭豆腐!! ベリー兄ちゃん臭豆腐!!」 「臭豆腐!! 臭豆腐どこ!?」 「臭豆腐寄こせー!!」  四つ子はおしくらまんじゅうしながら冷蔵庫の中を漁りに漁りまくった。  怒涛に押されて落っこちそうな皿をギリギリのタイミングでキャッチするベリー。 「あった!! 豆腐!!」 「ちっ………木綿か………」 「納豆のせたら臭豆腐になるんじゃない!?」 「バカ野郎!! 臭豆腐は豆腐そのものを発酵させてこそ成り立つ珍味の中華料理だぞ!? そんな生半可な気持ちで臭豆腐を語るんじゃねえ!!」 「アイスケあんた中華料理になると姑みたいにうるさいわね………」 「ベリーお兄ちゃん! 臭豆腐ないのー!?」   ビキリ、とベリーのこめかみに癇癪筋が走る。  バンッ! とカウンターを平手で叩いた。 「あるわけないでしょーがッ!! 日本の一般家庭の冷蔵庫に臭豆腐は常備していません!! あったとしても臭すぎて持って歩けるわけないでしょあんなもの!!」 「おいコラ臭豆腐を侮辱すんのは許せねーぞ!!」 「そーだそーだっ! こくそしてやるーっ!」 「ちょっと黙りなさい!!」 「臭豆腐(チョウドウフ)!!」 「流暢な中国語で言ってもないものはないですっ! 没有臭豆腐(メイヨウチョウドウフ)!!(臭豆腐はありません!!)」  バンバンッ! とベリーはカウンターを二回叩いて、我が家に雷という名の怒声を振り落とした。 「いい加減学校に行きなさあああああああいっ!!」
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