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「相変わらずカワイイな」
「はああ?」
耳元で囁かれ怒りと羞恥で全身が震え出す。
バックハグされたままなのが悔しくて離れようと必死でもがくものの全く敵わない。
「ええと…、突然乱入して申し訳ありません。俺は舘野陽臣(たてのはるおみ)と申します」
目を丸くして立っている大江さんにハルが声をかけた。
「今の様子でおわかりになったかと思いますが、コイツ俺のなんで回収させてもらいます。後日、きちんとお詫びに伺いますが、ちょっと話し合いが必要みたいなので俺たち今日はここで失礼させていただきます」
ハルはがっちりと私を抱え込んだまま大江さんに頭を下げたものだから、必然的に私まで頭を下げることに。
「ちょっと、ハル放して」
何が俺たちよ。
ハルの腕の中でもがいてみるけれど、着なれない振袖とハルのバカ力で完全に封じこまれている。
どうして着物って足を広げることが出来ないんだろう。
おかげで踏ん張ることが出来やしない。
じたばたしていると、またもやハルが耳元に口を寄せてきた。
思わず首を縮めて身構える。
「暴れんなよ。これ以上抵抗するならこの場で思いっきりキスするぞ。もちろん口にな」
は?
意味不明な発言。
不穏な言葉に背筋が寒くなる。
何てことを言い出してくれたんだ。
「アホなの!?」
「アホはお前だろうが。俺というものがありながら」
そんな言葉にカチンとして言い返そうとしたら、大江さんが「ぷっ」と吹き出した。
はっ。
いけない私ったら。
お見合い中に思わず素に戻って怒鳴り散らすところだった。
「大江さん、すみません。誤解なんです」
「誤解じゃないだろうが」
焦って言い訳しようとするけれど、ハルが邪魔をする。
「水音さん、どうか落ち着いてください」
と大江さんがまるで私とハルの口喧嘩の仲裁にはいるように語りかけてきた。
「…すみません」
「恋人はいないと聞いていましたが、ずいぶん仲がいい方がいたみたいだ。彼が言う通り、お二人には話し合いが必要みたいですね」
「いいえ、恋人なんかじゃありませんから。本当に何かの間違いで」
まだくっついてくるハルをぎゅうっと両手で押し退けながら慌てる私に大江さんは笑顔を見せた。
「恋人じゃなくても大切な人のようだ。どうやらお邪魔したのは私らしいし、今日はこれで解散にしましょう。両親には私から話をしておきますので水音さんはお気になさらず。また連絡します」
大江さんは怒りもせず、爽やかな笑顔で「後はお二人で」とハルに会釈をしてエレベーターホールに向かって去って行った。
ああああああ―――
「大江さん…」
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