ハル来たりなば…~お見合いにgo~

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去っていく大江さんに右手を伸ばすが、それすらもハルに阻止される。 …ムカつく。 ムカつく、ムカつく、超ムカつく。 去って行った大江さんを追いかけることもできず、ハルに後ろから羽交い締めにされ怒りに震える。 大江さんがいなくなってもまだ身体は放してもらえない。 まず、落ち着こう。 息を吸って吐いて…。 そうして二度三度と深呼吸をして呼吸を整える。 それから声を出した。 「すみませんが、身体を離していただけないでしょうか」 「いやだ」 とてもとても丁寧にお願いしたのに、戻ってきた返事はシンプルで子どもっぽいものだった。 ふざけんな。 我慢できなくなって肘鉄をいれようと右肘を上げたら、それに気付いたハルに簡単に阻止される。 「水音、お行儀悪いよ」 手が離れたと思ったら両方の肩を持たれあっという間にくるんっと180度回される。 正面にハルの顔があって、やけに近いなと思ったけど。次の瞬間には両頬を掴まれて目の前が暗くなった。 その次に感じたのは唇の温かさ。 え?なに? 唇に感じた熱と乾燥した柔らかい感触でやっと私の脳が理解した。 ばか、ばか、ばか、私のばか。簡単にキスされてるじゃん。 どんっとハルの胸を叩いて抗議した。 脛を蹴ろうとしたけれど、着物の裾が邪魔をして足がうまく上がらない。 くくくっと唇を離したハルが私をバカにするように笑いながら、また私を抱え込む。 さっきとは違い今度は正面のまま。 「さいってー。最低、最低よ。女の敵」 悔しくても抱え込まれていて殴ることも蹴ることもできず、自由に動くのは口だけ。 綺麗な振袖も完全に私の敵になっていた。 「水音の着物姿初めて見たけどかわいいな」 こんちくしょう。 くくくっと面白がっているハルの笑い声が余計にムカつく。 「放してよ、このばかっ、ボケ、アホ、くそエロオヤジ、はげっ!」 私の罵詈雑言にそれまで余裕だったハルの身体がびくりと反応した。 「…水音」 あれ、これは誰の声?と思うような低い声に思わず鳥肌がたった。 な、なんかヤバい? いやな予感は当たるもの。 ハルはひょいっと私を抱き上げて歩き出した。 これは所謂お姫様抱っこってヤツではないか。 今度は何が始まったというのか。 何をされてんの、わたし。 「ハル、ハル」 呼んでも返事がなく更に 「ハル、ハル、ねえ、ハル」と呼びかけるもハルは黙ってずんずん歩いていく。
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