ハル来たりなば…~お見合いにgo~

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ハル来たりなば…~お見合いにgo~

「水音(みお)帰るぞ」 かけられた声と同時に私の肩がぐいっと引かれ、驚いて振り向くと見覚えのある男の顔がすぐ後ろにあった。 驚いたけれど、それよりも怒りの方が大きい。 じぃーっと、しっかりとじっくり男の顔を見つめた後で声を出した。 「どなたですか?…人違いでは」 思ったよりも低い声が出た。自分でもびっくりだ。 私の冷たい声に肩に置かれた男の手が一瞬強張ったような気がしたのだけど、気のせいだったかもしれない。 そんなこと気にならないように男の口角がくいっと上がった。 「婚約者がいるのにお見合いとは感心しないな。お相手にも失礼だろう?」 笑顔でわたしを諭すような言葉をかけてくるけれど、目は笑っていない。 …婚約者? どこに私の婚約者が? いったい、私が、いつ、誰と婚約したと? 男のお綺麗な顔をぎろりと睨み、ぷいっと顔を背けて肩に置かれた男の不躾な手を払ってやった。 「大江さん、行きましょう。お話しする時間が無くなってしまいますわ」 隣に立つスーツの男性の袖にそっと触れ押し出すように一歩踏み出した。 「でも…いいんですか?お知り合いでは?」 スーツの男性、大江さんは戸惑うように私と不躾な男の顔を交互に見る。 「いいえ」 知り合いではないときっぱりと否定した。 私と大江さんはお見合いの定番、"後は二人で庭でも見ながら話をしておいで"とホテル自慢の中庭に行くように両家の両親たちから送り出されたところだった。 「もしかして、私の兄の遠ーい昔の知人かもしれませんけど、もうずいぶん前の話なのでよく覚えておりません。それに話の内容に心当たりもありませんので、どなたか別の方と勘違いされているようですわ」 さあ参りましょうと大江さんの腕を押すようにして歩き出す。 「待てって」 「きゃあ」 男に腕を強い力で引っ張られ、体重を支えきれずバランスを崩した私は後ろに倒れ込む。 着物姿の私の身体はぼすんっとがっちりとした男の身体に受け止められた。 「ハル!危ないじゃないの!今日わたし振袖に草履なのよ」 なんてことするんだ、と声を荒らげると、頭の上からふんっと鼻で嗤われる。 あ、やば。 つい反応しちゃった。 「ただいま、水音」 途端に右耳に感じた柔らかい感触とリップ音。 嬉しそうな声を出し私を後ろから抱きとめた格好のまま私の右の耳にちゅっとキスを落としたバカ男。 「な、何すんのよっ」 一気に顔が熱くなり全身に熱が回っていく。
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