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花斗を起こさないように、そうっと寝室のドアを開ける。
もっとも、ここは私と花斗の部屋になってしまったのだが。
スヤスヤと眠る花斗を踏まないように気を付けて、床に敷いた布団に寝転ぶ。
今日は珍しく花斗の寝相が良い。私の寝るスペースが空いている。
花斗の上から落ちてしまったブランケットを彼にかけ、私は夏用の薄い布団を被った。
暦の上ではまだ春だけど、このごろはすっかり暑い。けれど、夜は冷える。
風邪でも引いてしまったら、職場にも姉にも迷惑をかけてしまう。
「おやすみ、花斗」
隣で寝息を立てる息子に声をかけると、ふと枕元に置いてあった花斗のおもちゃが目に入った。
「ちゃんと片付けなさいって言ったのに」
手に取った飛行機のおもちゃ。
これは、今日、壱月が拾ってくれたもの。
「壱月……」
連絡先をもらったにも関わらず、私は何もできなかった。
言いたいことが多すぎて、何をどう伝えたらいいのか分からなかったのだ。
息子の相手をしながら家事をすれば、壱月に連絡する暇なんて無い。
……と、自分に言い訳をして、今日は連絡するのをやめてしまった。
そもそもあの時、壱月は私のことをどう思っていたんだろう。
何を考えていたんだろう。
今はどう考えているんだろう。
それを聞くのも、ちょっと怖い。
――彼との別れは、いつも最悪だったから。
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