13 壱月は頼れるCAP

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13 壱月は頼れるCAP

「飛行機~飛行機~でっかいぞ~ふふんふ~ん♪」  乗ったこともないくせに、今日も花斗の謎の歌は絶好調だ。  私たちは今、羽田空港へ向かう壱月の車に乗っている。  いつの間に買ったのか、車にはチャイルドシートがついていた。  さすが、抜け目ない壱月だ。  花斗は、「ここ僕の~!」とテンションだだ上がりだ。 「もうすぐ着くぞ~」  スカイブリッジを越えたあたりで、壱月がそう言う。  花斗は「わーい!」と万歳をして、私と壱月は苦笑を浮かべた。  なるほど、壱月が昨夜言っていたように特別なチェックはない。  壱月の社員証で彼の会社のファミリーフェスタに易々と足を踏み入れた私たち。  空港のバックヤードに入れるとあって、花斗は緊張の面持ちだ。  私の服の裾を引っ張りながら、少し後ろを歩く。 「花斗、ここからは花斗の行きたいところに行っていいからな」 「でも……」  キョロキョロと辺りを見回して、花斗は困惑の表情を浮かべる。 「何があるか、わかんない」  ……ですよね。  二歳児の花斗は、まだ字を読むことができない。 「あれなんか、どうかな?」  私が指差したのは、『飛行機操縦シミュレーター』の看板。  すると、壱月は苦笑を浮かべた。 「なあに?」  花斗はその方向をじっと見つめたまま、私に訊ねる。 「飛行機の操縦の、練習ができるんだって」  そう言いかけて、壱月が言葉を遮った。 「さすが愛音、お目が高い」 「え?」 「一番人気のブースだ」  ハハっと笑いながら、私に耳打ちしてくる。 「あそこ、俺の部署の管轄だから」  はっ! そうだ、壱月はパイロット!  壱月の部署ということは、壱月の同僚がいるわけで……。 「ママたち、遅い!」  その声にはっと視線をあげると、もう既に花斗はそのブースへと一直線に駆け出していた。
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