4729人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
13 壱月は頼れるCAP
「飛行機~飛行機~でっかいぞ~ふふんふ~ん♪」
乗ったこともないくせに、今日も花斗の謎の歌は絶好調だ。
私たちは今、羽田空港へ向かう壱月の車に乗っている。
いつの間に買ったのか、車にはチャイルドシートがついていた。
さすが、抜け目ない壱月だ。
花斗は、「ここ僕の~!」とテンションだだ上がりだ。
「もうすぐ着くぞ~」
スカイブリッジを越えたあたりで、壱月がそう言う。
花斗は「わーい!」と万歳をして、私と壱月は苦笑を浮かべた。
なるほど、壱月が昨夜言っていたように特別なチェックはない。
壱月の社員証で彼の会社のファミリーフェスタに易々と足を踏み入れた私たち。
空港のバックヤードに入れるとあって、花斗は緊張の面持ちだ。
私の服の裾を引っ張りながら、少し後ろを歩く。
「花斗、ここからは花斗の行きたいところに行っていいからな」
「でも……」
キョロキョロと辺りを見回して、花斗は困惑の表情を浮かべる。
「何があるか、わかんない」
……ですよね。
二歳児の花斗は、まだ字を読むことができない。
「あれなんか、どうかな?」
私が指差したのは、『飛行機操縦シミュレーター』の看板。
すると、壱月は苦笑を浮かべた。
「なあに?」
花斗はその方向をじっと見つめたまま、私に訊ねる。
「飛行機の操縦の、練習ができるんだって」
そう言いかけて、壱月が言葉を遮った。
「さすが愛音、お目が高い」
「え?」
「一番人気のブースだ」
ハハっと笑いながら、私に耳打ちしてくる。
「あそこ、俺の部署の管轄だから」
はっ! そうだ、壱月はパイロット!
壱月の部署ということは、壱月の同僚がいるわけで……。
「ママたち、遅い!」
その声にはっと視線をあげると、もう既に花斗はそのブースへと一直線に駆け出していた。
最初のコメントを投稿しよう!