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「あー……」
壱月はふうと息をつき、それから曖昧な笑みを外の飛行機に向けた。
「あの日、うちの親は北海道に行くところだった。で、その飛行機が……」
壱月はそのまま、淡々と話してれた。
ご両親の乗った飛行機が異常を知らせて飛び立ってからすぐ戻ってきたこと。
すると、温度の上がった機内のタービンから出火し、燃料タンクに引火した炎が爆発事故を起こしたこと。
翼のすぐ隣に乗っていた、壱月のご両親だけがその事故で亡くなったこと。
壱月の母親は足が悪く、すぐに避難することができなかったらしい。
「ターボエンジンのファンの中に残された、たった一本のボルト。原因はそれだけ。些細な人為的ミスで、死人がでた。ま、それだけじゃないとは思うけど。俺の親、すんげえお人好しだからさ……」
壱月は自嘲するように少し鼻を鳴らした。
「俺が渡した、プレゼントだったんだ、北海道旅行……。親の死は、俺のせいじゃないって分かってんのに、折り合い付かなくて。ダセーけど怖くなってさ、パイロット辞めようと思った」
「え……」
壱月は一度、深い溜め息をこぼす。
もう、顔は笑っていなかった。
「副機長として、俺だったらどうしてたか。あの日のことは、今でも考える。だから、安全に安心して空を飛べるように、徹底して動いてたら、いつの間にか機長になってた。……なんてな」
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