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何度かアプリ内でやりとりをして、互いが同級生の“海野 壱月”と“大木本 愛音”であることは分かっていた。
最低なフラれ方をしたはずなのに、それでも彼に会いたいと思ったのは、笑い話になってしまった過去が良い思い出に感じてしまったから。
「愛音、さん?」
駅前で彼を待っていた私に、壱月はおちゃらけてそう声をかけてきた。
「やめてよ、壱月」
振り返ると、いたずらのバレた子供のようにへへっと爽やかに笑う壱月がいた。
その顔が7年前と変わらなくて、私の胸は高鳴った。
「久しぶり」
「うん、久しぶり、だね」
運命のように、再会した。
あの頃と変わらぬ、大好きだった笑顔が目の前にある。
溢れる気持ちが、叫びだした。
彼のことが、好きだ、と。
だからあの日、私は彼に体を許してしまったのかもしれない。
◇◇◇
あの時のことを思い出すと、今でもため息が溢れる。
私は、何度幸せを逃してきたのだろう。
そんな思考を遮るように、隣から愛しい寝息が聞こえる。
「花斗がいてくれて、幸せなのにね」
そう呟いて、愛しい息子のサラサラの髪を撫でた。
悔しいかな、その感覚は、今日再会したばかりの壱月を連想させる。
私は思考をプツリと区切るように、頭からその男の顔を追い出す。
彼のことは、今日はもう考えたくない。
そのままぎゅっと目を閉じた。
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