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2 言うべきか、言わざるべきか
翌朝7時。
疲れて眠い目を擦りながら、従業員専用出入口に体を差し込む。
「おっはよう!」
「ああ、おはようございます~」
守衛のおじさんは毎朝元気で、少し羨ましい。
私は朝から起きない息子を揺り起こし、機嫌の悪いまま朝食を食べさせ、保育園に着いたらば「イヤだ」と泣き出し足に貼りついた息子をひっぺがし、心を鬼にしてここまでやって来たのだ。
「あ、店長、おはようございまーす」
通路の先の自販機で缶コーヒーを買っていると、副店長の水瀬がやってきた。
彼女は明るくてお店のムードメーカーだが、少し抜けているところがある。
しかし、シングルマザーで店長の私には、仕事上はとても心強い味方だ。
「店長、朝から顔が死んでますよ?」
「あはは、休み明けだからね。息子が保育園行きたがらなくて大変だったの」
「そっかぁ、息子さんに愛されてるんですね、店長!」
そう言って、水瀬はこちらにウインクを飛ばす。
けれど、疲れている理由はそれだけではない。
壱月のことを考えて寝付けなかったのだ。
だが、そんなことは彼女には関係ない。
いつも通りを装って、エレベーターを待ちながら、私は缶コーヒーのプルタブをぷしゅっと開けた。
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