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「でも……」
「じゃあ愛音は彼にどうして欲しいのさ?」
壮馬が私の心まで覗くように、私の瞳を覗き込んだ。
そう言われると言葉が続かない。
実際、どうして欲しいのか迷っているからこうなったのだ。
彼の子供であることを告げて、養育費を払えと申し出たいのか。
怒りたかったのか。当たりたかったのか。
だったら昨日の時点で怒り狂っていたんじゃないか……。
「分かんない」
「だよな」
壮馬はなぜか安心したように笑った。
「だから、会って話せばいいの。ほら、今いつ会うか決めちゃいなよ」
「え!?」
「そうしないと愛音、いつまでも先伸ばしにしちゃいそうだから。愛音、仕事中はきちんとしてるのに、私生活ズボラだろ?」
ヘラヘラ笑う壮馬に急かされて、スマホを手に取った。
そして、手帳の間に挟んでおいた、あのメモ紙を広げる。
意を決し、壱月の番号を入力して、メッセージを送った。
すると、すぐに返信がくる。
「彼、何だって?」
壮馬は画面は覗かずに、私に聞いてきた。
「今夜どうかって。明日からは3日間フライトでロサンゼルスって……」
「なら、今夜会っちゃえって。ほら、早く返信!」
「はい……」
急かされて、今夜会う約束を取り付けてしまった。
「それにしても、フライトって……しょっちゅう海外行く仕事なんだ?」
「うん、パイロット」
「へえ、パイロット、かあ」
壮馬はなぜだか寂しそうな顔をして、カフェの窓の外に広がる空を見上げていた。
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