2 言うべきか、言わざるべきか

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愛音(あいね)、夕飯まだだろ? なんか食ってけば?」  不意に振り返った壱月の顔に、思わずドキッと胸が鳴った。 「え、いいよ」  とっさに否定してしまった。  外食は高くつく。  こんな高級感漂うラウンジで食事なんて。 「えー、僕、お腹すいた」  突然の花斗の腹ペコ攻撃に、ため息をついた。  俗に言うイヤイヤ期真っ只中の花斗。  きっと今日も、駄々をこねるに違いない。 「おうちに帰れば何か作ってあげるから」 「ええー、今がいい」 「わがまま言わないの」 「ヤダ」  やっぱりやってきた、ヤダヤダ星人。  こうなると、花斗の気持ちを切り替えるのはなかなか難しい。 「いいじゃん、食ってけよ。花斗はハンバーグ、好き? ここのは絶品だぞ〜?」 「好き!」 「ちょっと、何勝手に……」 「いいよ、俺の奢り、な」  爽やか笑顔とともに向けられた、『奢り』という言葉。  もしかして、夕食代が浮くのでは?  現金な自分に呆れつつ、壱月が差し出したメニュー表を手に取った。 「どれにする?」 「ハンバーグ!」  私の手にしたメニュー表には目もくれず、花斗はそう答える。  ため息をこぼすも、壱月は手を上げてギャルソンを捕まえる。  結局、壱月はハンバーグを三つ注文して、花斗にはオレンジジュースのおまけをつけてくれた。
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