2 言うべきか、言わざるべきか

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「愛音、旦那さん怒んない?」  注文を終えた壱月は、不意に私にそう訊ねた。 「え?」  キョトンとして答えると、壱月の視線はちらっと花斗に注がれる。  花斗はオレンジジュースを啜りながら、窓の外に夢中だ。 「ガキいるから。結婚、してんだろ?」 「あー、えっと、して、ない」  それだけ伝えて、言葉に詰まった。  言うべきか、言わざるべきか。  『花斗はあなたの子です』と。 「へえ……そっか」  私が迷っているうちに、壱月はそれだけ言うと、テーブルの上のお冷やを手に取った。 「パイロットのお兄ちゃん、あのね」  急に花斗が壱月をじっと見つめる。 「僕はパパがいない。でもね、可哀想じゃないんだよ。ママがいっぱいギュウしてくれるんだよ。ママ、いつもそう言ってる」 「花斗……」  急な息子の言葉に、胸がいっぱいになって思わず涙がこぼれそうになる。  下唇をぐっと噛んで堪えると、ちょうどハンバーグが3つ運ばれてきた。 「わーい、ハンバーグ! ママ、切って!」 「はいはい」 「『はい』は一回でしょ」 「はい」  次の瞬間にはこんな風なんだから、子供は恐ろしい。  もっとも、花斗にとってはそれが当たり前の世界だから、急に何かが変わったわけでもないのだが。  ふと視線を前に向けると、壱月は苦笑いをしながらハンバーグを頬張っていた。
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