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「わぁぁぁっ!」
窓ガラスにしっかり指紋をつけながら(もしかしたら鼻水とよだれもつけながら)、花斗は窓の外に魅了されている。
慌てて追いかけた私も、その窓の外の風景に圧倒されてしまった。
暮れかけて明かりの点り始めた街と川の向こうに、一定の感覚で赤い光を灯す管制塔と、光の道のようになった滑走路が見える。
そこに、次々に飛行機たちが発着している。
「すごいね、壱月!」
思わず花斗のようなテンションで後ろを振り返る。
キッチンでコーヒーを淹れていた壱月は「ははっ」とこちらに笑みを向けた。
途端に恥ずかしくなって、慌てて窓の外に向き直る。
「だろ? 羽田空港、丸見え」
壱月はいつの間にか隣に立っていて、二つ持っていたマグカップのうち一つを私に差し出した。
「ブラックだけど、いい?」
「あ、ありがとう……」
そう答えると、私と花斗の後ろにある、窓の外を向くように置かれたソファに座った。
「愛音たちも座ったら?」
「お、お邪魔します……ほら、花斗も」
私は壱月の隣に腰掛けたけれど、花斗は「ヤダ、ここがいい」と言って窓から離れなかった。
「あはは、分かってるね~花斗は」
壱月はコーヒーを飲みながら、ソファの背もたれに左腕を回す。
それがまるで私を包んでいるようで、不覚にもドキッとしてしまった。
「俺もさ、ここに座って飛行機の発着見るの。そんで『あの飛行機は今日の機長はアイツかな』とか、『あーお前は沖縄帰りか』とか、勝手に思ってる」
「へえ……」
パイロット馬鹿かも、と思いながら右隣を見ると、壱月はキラキラした視線を窓の外に向けている。
その瞳が花斗と同じで、やっぱりパイロット馬鹿だな、と思った。
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