3 二軒隣のタワーマンション

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 それから二週間が過ぎた。  姉は同棲に向けて、住んでいる部屋から荷物を少しずつ運び出していく。  私は焦っていた。  条件にあう物件が見つからないのだ。  何度か不動産屋を訪ねた。  しかし、返ってくるのは「その条件だと難しいですね」というセリフばかり。  内見に行っても、見た目の古さや部屋の狭さに、花斗は「嫌だ」と全て一蹴りする。  ちょっとなあ、と思うところもあったから、この時ばかりはイヤイヤ期に感謝だ。 「ママ、なんでパイロットさんのおうちじゃダメなの?」 「パイロットさんのおうちがいい」  花斗に同じことを言われ続ける毎日を過ごす中、退去の日は刻一刻と迫っていた。  そんなある日の仕事中、入力業務でパソコンに向かってため息を漏らしていると、水瀬がニヤニヤしながらポンっと肩を叩いてきた。 「店長、困ったときは“旦那さん”に相談ですよ」 「そうだねえ……」  半ば空返事だったのだが、水瀬はそこを見逃さなかった。 「ほらほら、店長は休憩時間ですよ? 早く“旦那さん”にメール送って!」  壮馬にメール……壮馬に相談……。 「あ、それ、名案かも!」  壮馬なら事情を知っている。  相談するならもってこいの相手だ。 「え、ちょっと、店長ぉーー!?」  私はさっと立ち上がると、急いでロッカーからスマホを取り出す。  後ろから水瀬が覗いているのに気づいて、「ほら、午後出勤のスタッフの朝礼して!」とあしらった。
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