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今日は壱月宅への引越の日。
住んでいた家と新居との距離はたった二軒分。
ちょこまかと荷物を運ぶこと三往復、あっという間にその運び込みが終わる。
事情を知った姉も手伝いを申し出てくれたが、恋人、もとい婚約者の榎田さんとのデートという先約があったため丁寧にお断りした。
「ほんっとうに、これだけ?」
「うん、これだけ」
壱月が驚くように最後の荷物を抱えている。
私も荷物を抱え、部屋を出た。
もともと、着の身着のまま実家を追い出されたような私は、特に大きな買い物もしなかったため、持っている荷物は少ない。
増えたものといえば、ほぼ全部花斗のもので、それも服やおもちゃのみだ。
「ベッドとか、ソファとか、ねーの?」
マンションのエレベーターの中で、壱月が額の汗を拭いながら言う。
「ない。もともとお姉の部屋だから、家具はお姉のだし、あるものといえば布団くらい」
「部屋、フローリングだぞ?」
「今までもそうだったし」
「……そうかよ」
壱月はポリポリと頭を掻いて、部屋に入れた荷物を空き部屋へと運んだ。
そこは、広すぎるリビングの東側で、壱月の寝室の隣。
ここが、今日から私と花斗の部屋になるらしい。
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