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4 唐揚げ、時々、イヤイヤ
引越荷物がおおよそ片付いた頃、窓の外はもう日が暮れはじめていた。
花斗は新しい部屋の中で、おもちゃの飛行機片手に走り回っている。
すると、そこにノックの音が響いた。
「調子、どう?」
顔を覗かせたのは、エプロン姿の壱月だ。
「大方片付いたよ。あとは、食器とか……こういうのは、キッチンに置いてもいい?」
「もちろん。貸して。ついでに持ってく」
私がそれを壱月に手渡そうとした。すると――
「あーー!」
と、大きな声がそれを遮る。
「パイロットのお兄ちゃん!」
花斗が私の腕から強引に自分のメラミン樹脂のお皿を奪い取り、壱月の前に付き出した。
「僕のおかずは、ここです」
壱月はしゃがんで花斗に目線を合わせると、その飛行機の絵柄のお皿を受け取って花斗の髪をくしゃりと撫でる。
「はい、分かりました」
そう言う壱月の顔には、優しい笑顔が浮かんでいる。
するとなぜか、私の心臓がトクンと跳ねた。
「あ、花斗」
思い出したかのように、壱月は付け加えた。
「俺は、い・つ・き。名前で呼んでくれたら、嬉しいぞ?」
「うん、いつき!」
「おう、そうだ!」
壱月は少しだけ頬を紅潮させ、先程よりも激しく花斗の髪を撫でた。
それで、私は納得した。
そうか、壱月は子供が好きなんだ。
この同居の提案も、子供の相手をしたいから。
だったら、とことん面倒を見てもらおう。
“あなたの子”なんだから。
「あ、飯そろそろできっから、いいところでこっち来いよ?」
私がそんな闘志を燃やしているとは知らない壱月は、そう言って部屋を出ていこうとする。
「あ、待って。私ももう行く!」
「わーい、僕もーー!」
私の言葉に飛び上がった花斗が壱月の方へひょこょこ走る。
その光景にため息をつきながら、私も二人のあとに続いて部屋を出た。
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