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壱月はご飯と味噌汁を盛り付けてテーブルに運ぶ。
ほかほかと湯気の上がるそれからは、お出汁のいい香りがする。
壱月は、料理上手らしい。
料理下手な私はこの三年間、四苦八苦しながらも花斗の為に手料理を作り続けてきたのに。
なんだか惨めな気持ちになって、思わず顔を歪めた。
「愛音?」
不意に目の前に壱月の顔が現れて、私は慌ててブンブンと横に顔を振った。
「何でもない! ……あれ、花斗は?」
「あそこ」
壱月が指を差した方を見れば、「唐揚げ~唐揚げ~」と謎の歌を歌いながら踊るアホ丸出しの二歳児の姿。
「花斗、夕飯いただくよ!」
「わーい!」
素直にこちらに走ってきた花斗は、突然ピタッと立ち止まる。
すると、顔をしかめて私の足元にペタッとくっついた。
「ママ、このお椅子、ヤダ」
「……は?」と言ったのは、四人掛けのダイニングテーブルの、キッチン側に座る壱月だった。
私は壱月の前に座ろうとしたところである。
「花斗は、私の隣でいいでしょ?」
壱月もそのつもりだったのだろう。
私の隣の席に、花斗の食器をセットしておいてくれている。
「ヤダ。じゃあ、だっこして」
「だっこじゃ、ママ食べれない」
「俺の隣来るか?」
「ヤダ!」
壱月の提案の返答に花斗が一番大きな声を出したからか、壱月は目を見開く。
育児初心者には、これはダメージが大きいだろう。
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