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「何が嫌なの?」
しゃがんで目を合わせると、花斗はおろおろしながら小声で答えてくれた。
「このお椅子、怖い」
「椅子……?」
四本足のダイニングチェアが、花斗には心許なく見えていたらしい。
言われてみれば、子供用でもなければ、お腹を支えるベルトも肘掛もない。
子供には背の高すぎる椅子が、どうやら怖いらしい。
「そっか、このお椅子、怖かったね」
よしよしと頭を撫でて、ぎゅっと花斗を抱き締めた。
花斗はぐすんと、少しだけ鼻を啜った。
「前まではローテーブルだったから、ダイニングチェアが怖いなんて考えもしなかったの。ごめんね、壱月」
振り返れば、壱月は早速テーブルの上のものを、隣のリビングの、ガラス製の小洒落たローテーブルへ移していた。
「こっちで食べよう、花斗」
壱月がそう言ってにかっと笑ったら、花斗も「うん」と頷いた。
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