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ふかふかな絨毯の上に正座をして、唐揚げを頬張る花斗。
私はその隣で花斗のこぼした衣を拾いながら、自分のご飯を食べていた。
壱月はそんな私たちの前で胡座をかいて、お茶碗のご飯を掻き込んでいる。
元々背の高い彼。
高校の時から変わっていなければ、百八十三センチだ。
胡座をかいていても、その大きさに圧倒される。
いや、胡座だからか、正座をしている私たちが小さくなったような錯覚に陥る。
「あーあ……」
壱月を見ていたその数秒。
気を抜いた隙に、目を離していた花斗から、落胆の声が聞こえた。
どうやら大きな唐揚げを落としてしまったらしい。
「あーーもう!」
慌てて唐揚げを拾うも時既に遅し。
グレーのお洒落な絨毯に、油染みがついてしまっていた。
「ごめん壱月、ちょっと花斗見てて! あと、キッチン入るよ!」
立ち上がった花斗を抱き上げ壱月の膝に座らせると、キッチンに向かい台所用洗剤とキッチンペーパーを拝借した。
キッチンペーパーに洗剤を垂らしながら戻ると、慌ててその油染みを叩く。
「いいよ別に」
壱月の声が聞こえたけれど、私は絨毯を叩く手を止めずに返した。
「よくない。こういうのは初動が大事なの、遅くなれば落ちなくなるよ」
「いいって。別に落ちなくても」
「よくないの。こんなにお洒落な絨毯なのに……」
「別に買い替えればいいだろ」
「それは勿体ないでしょ!」
「家主がいいっつってんだからいいだろ!」
はっとした。
その怒号にも似た声に壱月の方を見れば、彼の膝の上で肩をピクピクと揺らしながら、必死に涙をこらえる花斗の姿。
「ママ、……ごめんなさい」
ああ、やってしまった。
花斗の気持ちを、拾えなかった。
うるうるとした花斗の目元を見て、後悔が押し寄せる。
けれど、ここは“他人”の家だ。
広すぎるソファ、大きすぎるテレビ、お洒落すぎる絨毯……その部屋の中のもの全てが、今まで私がいた世界と違いすぎている。だから――
「……ごめん、でもやっぱりやらせて」
私はそう言って、絨毯の油染みが落ちるまで、グレーの絨毯を叩き続けた。
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