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「いつき、はいどうぞ」
花斗が、自分の使った食器を彼の元へ運んでいる。
先に夕飯を食べ終わった壱月がキッチンで食後のコーヒーを淹れていた。
食べ終わった食器は自分でシンクへ運ぶ、というのは私が花斗に教えたルールだ。
壱月宅でも律儀にルールを実行した花斗は、偉い。
私はそっと花斗の後ろからキッチンを覗く。
息子の成長にニマニマしてしまうけれど、壱月がいるのは気まずい。
「サンキュ、花斗」
花斗に気づいた壱月が、急に爽やかな笑みを浮かべる。
そしてお皿を受け取ると、花斗に聞いた。
「美味かったか?」
「うん! 唐揚げって、おうちで作れるんだね!」
その花斗の一言に、後ろにいた私はさっとキッチンの向こうの壁に隠れた。
あのことは言うなよ、言うなよ、恥ずかしい……。
「ママはね、唐揚げはスーパーで買うの」
あーあ、言っちゃった。
ちらっとキッチンを覗く。
すると、壱月と目があって、私は慌ててまた壁の向こうに隠れた。
「そうか、美味いって思ってくれて、俺は嬉しいぞ」
壱月は花斗に視線を戻すと、大きな手で花斗の髪をくしゃりと撫でた。
花斗の頬が、満足そうに紅に染まった。
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