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「あー……あとさ、愛音」
壱月はコーヒーの入ったマグカップを、壁の向こうの私にぶっきらぼうに差し出した。
「さっきはごめん。言い過ぎた」
「……私も、ごめん。なんか、焦っちゃって」
「うん」
壱月はそう短く言って、こちらの見えるところまで来ると、立ったままコーヒーを一口飲んだ。
「でも、これからあーゆうことあっても、別にいいから。俺、気にしないし。ガキがいると、よくあんだろ? 俺の姪っ子もさ、よくこぼすんだよ。だから」
「そっか……」
壱月には姪っ子がいるのか。
どうりで、子供の対応の仕方が慣れているはずだ。
「俺も気を付けるし、この家では自由にしてもらって構わない。愛音も、いちいち気遣うの大変だろうし」
「うん……私もごめんね。なんか、意地になっちゃった」
「おう……」
私も立ったままコーヒーに口をつけた。心なしか、優しい味がする。
「ママ、いつき、仲良し?」
間にいた花斗が、私たちの顔を交互に見上げる。
顔をあげれば、眉をハの字に曲げた壱月と目が合った。
きっと、私も同じような顔をしているに違いない。
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