4728人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
1 二度目の再会は突然に
午前の出勤ラッシュが終わった頃、平日休みの私は、息子を連れて羽田空港にやって来た。
息子の大好きな、飛行機を見るために。
今は五月。春の暖かな日差しが、空港の広い窓から差し込んでいる。
「ママ、早く早く!」
月に一度は来ているから、息子の飛行機の見えるデッキまでの足取りは二歳半とはいえ早い。
一方、ベビーカーを押す私はそんな息子を追いかけるので精一杯だ。
「花斗、ちょっと待ってよ」
お気に入りの飛行機のおもちゃを片手に、先を行く我が息子が振り返って私を呼ぶ。
「ママ、遅い!」
「あ、こら! 前を見なさい!」
言うが早いか、
──ドンッ!
花斗は見事に目の前にいた男性の、ネイビーのズボンにぶつかっていた。
「ひ、は、ふ、うえーん」
「わー、ごめんなさい!」
慌てて遠くからそう叫ぶと、男性はしゃがんで花斗に目線を合わせた。
「大丈夫か? 坊主」
白い半袖シャツに黒ネクタイ、金色の刺繍のロゴが入った紺色の帽子。
肩についている黒地の布には4本の金色のライン。
爽やかスマイルを浮かべた彼は、白い手袋をした手で花斗の頭をポンポンと撫でた。
すると花斗の涙は引っ込んで、代わりにキラキラとした視線がその男性に注がれる。
やっと追いついた私は彼に頭を下げたけれど、花斗は自分が引っ込み思案なことも忘れて、目の前の男性を見つめていた。
「おにいさん、パイロットさん?」
「ああ。……あ、これ」
彼は足元にあった花斗の飛行機のおもちゃを拾い上げる。
「落としたぞ」
それを受け取った花斗の顔に、ぱぁっと笑顔の花が咲いた。
「すみません、この子、パイロットに憧れてて」
その場を離れない花斗を彼の前から引き剥がし、張り付けた笑顔を彼に向けた。
「いえいえ、こちらこそすみませんでした」
そう言ってパイロットさんは立ち上がると、帽子を外して前髪をかきあげる。
「……壱月?」
最初のコメントを投稿しよう!