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なんてことを言うんだ、花斗は!
「ごほ、ごほっ!」
目の前で噎せ込んだ壱月は、涙目になりながら慌ててコップに水を入れ、ごくごくと飲み干す。
「だいじょーぶ?」
純粋な花斗の瞳に、壱月は親指を立てて無言で答える。
「いつき、僕と一緒。あーん、僕も好き」
花斗はキャッキャと喜んで、持っていた飛行機のおもちゃをかかげる。
それからびゅーんびゅーんとキッチンを一走りして、ダイニングへ戻っていった。
「……なんか、ごめん」
「いや、いい」
だいぶ落ち着いたらしい壱月は、また水を飲み干す。
が、視線は前を向いたまま、こちらに合わそうとはしなかった。
その頬がほんのり朱に染まっているのが見える。
どうやら、壱月は私と同じ気持ちらしい。
私も、今どんな顔して壱月を見たらいいか分からない。
そもそも、私もコロッケを壱月の手からパクって食べちゃったし……。
思い出したら頬が急に熱をあげた。
あー、もう、バカ! 何思い出してるの!
胸の内で自分にツッコんで、ふう、と息を吐き出す。
「こ、これ、盛り付けちゃうね!」
「お、おう」
私は急いで味噌汁をお椀に注いで、逃げるようにダイニングへそれを運んだ。
ダイニングでは、花斗が「コロッケ~コロッケ〜」と謎のコロッケの歌を歌いながら変なダンスを踊っている。
「ははっ。なんだよ、それ」
背後から、壱月の笑い声が聞こえた。
私は、なんだか三人の生活が楽しいと思ってしまった。
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