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その日の夜。
やっぱりお礼は伝えねばと、花斗を寝かせてから壱月の寝室を訪れた。
初めて入った壱月の部屋。
シンプルな机の上にノートパソコンと地球儀が置かれている。
その正面には、大きすぎるほどの世界地図、そしてその横の本棚には難しそうな本がぎっしり詰まっていた。
「わぁ……」
思わず感嘆の声を漏らすと、壱月はふっと笑った。
「ガキみてーな部屋だろ」
そう言うと、壱月は机の椅子をコロコロとベッドの前に移動させる。
「ここに座れ」ということらしい。
壱月自身はベッドの縁に腰かけていた。
「全然。ただ、好きなんだなって」
「……まあ、好きだな」
壱月は頬を赤くして、大きな手で後頭部をごしごし掻いた。
パイロット馬鹿。
高校の時から、それは全然変わらない。
「ほら、どーぞ、入って」
「お邪魔します……」
いそいそと彼の部屋に足を踏み入れ、彼の前に置かれた椅子に座る。
すると、同時に質問が飛んできた。
「で、どーした?」
「お礼、言いそびれちゃったなって思って」
「は?」
壱月はポカンと口を開く。
私は照れ臭くなって、視線を反らした。
「朝は早いのにご飯準備してくれた。絨毯も気にして退けてくれた。それに、あの椅子とベッドだって……」
「なんだ、そんなことか」
「そんなこと、じゃないよ。高かったはずだし、昨日の今日だし……だから、さ」
壱月が視界の隅で口角を上げた気がして、私は反らしていた顔を元に戻した。
「ありがと」
「……どーいたしまして」
壱月はまた困ったように眉をハの字に曲げて笑う。
「気に入ってくれた?」
「そりゃあ、もちろん。花斗、よほど嬉しかったのか、掛け布団に抱き付いて寝てるよ」
そう言うと、壱月は満足そうにさらに口角を上げた。
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