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「そっか、良かった。昨日の夜、急いで探したんだ。今日は早上がりだったから、受け取れると思って」
「もしかして、昨日の夜起きてたのって……」
「それとこれとは別の話だろ」
照れ臭そうに笑う壱月。
なぜか心がほっと、溶けていく。
「でも、何で? どうして、ここまで……」
言ってから気づいて、途中でやめた。
これは、あの日連絡を途絶えてしまった私への懺悔のような気がしたから。
これは、優しさじゃなくて、お詫びの品。
私を独りぼっちにした、壱月のせめてもの懺悔なのだろう。
そう思うと、途端に虚しさが胸を襲う。
だから私は、慌てて笑顔を張り付けて、別のことを口走った。
「あー、でも明日の朝は作らなくていいからね!」
「いーよ、俺がやる。昨日、甘えろって言ったろ?」
壱月はニコっと爽やかな笑みを私に向ける。けれど、私の心は素直に「うん」と頷けない。
その『甘えろ』は、『させてくれ』っていう、自己満足の懺悔じゃないの?
そんなの、私は……。
どう言おうか迷っていると、壱月は私の頭をポンと撫でる。
「でも、悪いが夜は無しだ。明日は国際線乗るから。帰りは明々後日」
「そうなの? 国際線かぁ」
「まーな。飛べるとこはどこまでも飛ぶ」
そう言って壱月は、壁の世界地図を見つめる。
その瞳が、まるで飛行機を見つめる花斗のようにキラキラと輝いている。
「どこまでも、飛びたいんだ。ちっさい頃からの、夢だったから」
「知ってる」
壱月の夢。
高校の頃、友人に向かって力説していた、飛行機の魅力。
そんな彼に好意を寄せた、若かりし日の私。
ふとあの頃を思い出して、ふっと自嘲するように笑った。
まさか、壱月と同居することになっちゃうなんてね。
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