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時間が止まった気がした。
それは、ずっと私が連絡を取りたかった人物で、ずっと探していた人物で──
「お前……愛音?」
「うん」
──この子の、父親。
「愛音、こんなガキいたんだ」
「うん……」
上手く切り返せなかった。
好きだった、最低、後悔してる、怒ってる、……言いたいことが多すぎる。
いろんな感情が胸に渦巻いて、そう言葉を返すのが精一杯だったのだ。
「キャプテン、先行っちゃいますよ?」
先を歩いていた壱月と同じ制服の男性がこちらを見ていた。
「悪い、今行く」
壱月は彼にそう言って、私に会釈し体を元歩いていた方に向けた。
「待って!」
思わず壱月を引き留めた。
上手く言葉に出来ないだけで、言いたいことは山ほどある。
「あのさ、……また、会えないかな?」
「は……?」
壱月は少し悩むように顎に指を当て、やがて胸ポケットから小さな手帳を取り出した。
そこにボールペンでさっと文字を走らせる。
そのページを破ると、私の手にさっと握らせた。
「連絡して」
壱月はそれだけ言うと、さっと同じ制服の彼の元へ走って行ってしまった。
「ねえ、ママ」
花斗が私の服の裾を引っ張った。
見れば、キラキラの視線がこちらに向けられている。
「パイロットさん、ママのお友だち?」
「あ、ああ、うん、そうだよ」
私は曖昧な笑顔を花斗に返した。
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