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夕飯の支度が終わった、日暮れの頃。
「ただいまー」
壱月の声が玄関から聞こえて、花斗がダイニングを飛び出す。
「いつきーー!」
花斗の元気な声が部屋中に響く。
ダイニングに入ってきた壱月は抱きついた花斗をそのまま片手で抱き抱えていた。
「おかえりなさい、でしょ」
「あ! そーだった!」
私に言われた花斗は壱月から下りると、彼の前に立って頭を160度くらい下げた。
「おかえりなさい」
丁寧すぎやしませんか!?
壱月も花斗のその様子に思わずクスクスと声を漏らす。
「ただいま戻りました」
壱月は頭を下げて返事をすると、手にしていたキャリーバックをリビングに置き、床の上で開く。
「じゃーーん!」
そこから壱月が取り出したのは、カラフルな箱と、飛行機の描かれた箱。
花斗はすぐさま「飛行機!」と反応し、それを無理矢理に壱月の手から奪う。
「ダメでしょ!」
「ははっ! いいって、これは花斗へのお土産だから。アメリカ限定品だぜ?」
「あめりか……?」
「あめりか、知らないか。……海のずっと向こうの、国だ」
「いつき、あめりか行ったの?」
「ああ、そうだ」
「飛行機で、あめりか!」
「ああ」
「すごいすごい! あめりか! いつき、あめりか!」
私の『ダメ』の声は届かず、始まってしまった壱月との会話にため息をこぼす。
花斗はアメリカをおもちゃの国か何かだと思っているに違いない。
飛行機の箱を見て、また「あめりか……」と呟いていた。
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