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やがて私の前でふと立ち止まった花斗は、それをこちらに見せつける。
「いいでしょ~」
「うん、ママにも見せて?」
「ヤダ!」
花斗は宝物を隠すように、飛行機のおもちゃをぎゅっと胸に抱きしめた。
そしてそのまま、壱月の元へ駆けていき、地べたにあぐらを掻いていた彼の膝の上にちょこんと座る。
「これは、はね?」
「これは“翼”っていうんだ。こっちが右翼、こっちが左翼」
「へえ~」
まるで仲のよい兄弟のようになってしまった二人の元に私も入ろうと足を向けると、花斗がこちらに手のひらをパーにして向けた。
「ママはダメ!」
――え?
初めて花斗から拒絶された。
私が何をしたというのか。
ショックに呆然と立ち尽くしていると、花斗はフイッと顔を背けた。
「ママはなんでもダメって言う。なにも買ってくれない。だから、ダメ。これは、いつきと僕の」
壱月の膝の上で、飛行機のおもちゃを見つめながら花斗はそう言った。
「花斗……」
追い打ちをかけるように言われ、様々な感情と想いとが、山ほど頭から溢れてくる。
けれど、こんな小さな我が子にそれは伝わる気はしない。
私はただそこに立ったまま、顔をしかめることしかできない。
「そっか、ママは厳しいんだね。でもそれは……」
言いかけた壱月のシャツを、花斗はきゅっと握る。
それで、壱月も黙ってしまった。
「いつきが、パパがいい」
小さい声で、でも確かに花斗はそう言った。
パパって……。
なんでよ、私が今まで、花斗のために、どれだけ……。
――なんて、そんなこと、言えない。
子供にとっては、目の前にあるそれが真理だから。
子供の素直さは、時に残酷だ。
目の前で壱月のシャツを握り続ける花斗と、こちらに向けた視線をさまよわせる壱月。
二人を見ていると、悲しみと怒りが溢れてくる。
こらえきれず、私の目頭はじわんと熱くなる。
泣きたい訳じゃないのに。
「……ママ、疲れちゃったから先に部屋にいくね」
何とか涙をごまかし笑顔を張り付けると、私はそのまま部屋に逃げ込んだ。
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