4808人が本棚に入れています
本棚に追加
壱月に連れられて、リビングのソファに座った。
大窓の向かいに置かれたソファと同じものだが、ここから見えるのは大きなスクリーンのテレビと、その両脇に置かれた観葉植物だけだ。
壱月は私に缶ビールを差し出す。
「いる?」
「いい。ビール苦手」
「そっか」
壱月は差し出した手を引っ込めて冷蔵庫にビールを戻すと、何も持たずに戻ってきた。
「赤ワインは? シャンパンとか。あ、確か焼酎も……」
「お酒はいらない。苦手だから」
「そっか」
壱月はそれだけ言って、私の隣に座る。
五十センチほど、間を空けて。
それから、そっと口を開いた。
「……あのさ、」
壱月の方を向くと、彼はうなじに右手を置いていた。
「……ごめん」
「え?」
「さっき怒ってたろ。ちょっと俺、無神経だったなって」
確かに、私のなかには怒りの感情が渦巻いていた。
でもそれは、壱月に対するものじゃない。
自分自身の感情と現実の差から逃げただけだ。
「壱月のせいじゃないよ」
「でも、結果的に――」
私は言いかけた壱月の言葉を遮った。
「じゃあ、もう花斗を取らないで」
思ったよりも冷たい声が出た。
怒りと悲しみの中にあったあの感情。
それが渦巻いたのは、花斗が壱月に「パパがいい」と言ったから。
悔しかったんだ、私。
最初のコメントを投稿しよう!