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「花斗を育てたのは私。いくら花斗が可愛いからって、甘やかさないでよ! 私は今まで、花斗のために……」
ああ、ダメだ。
こんなの、ただの嫉妬。
そう思うのに、花斗と刻んできた思い出が胸を駆け巡り、ポロポロと涙が溢れた。
何をしても泣き止まなくて、一日中だっこしながら何もできなかった赤ん坊のころ。
せっかく作った離乳食を、食べる前にぜんぶひっくり返された一歳のころ。
ヤダヤダ攻撃に骨を折り、寄り添わなきゃと自分のことを後回しにしてきた今。
でも、誰もがそうやって骨を折り身を粉にして子育てしてると信じて、文句も言わず一人でこうやって生きてきた。
仕事にだって復帰して、精一杯生きてきた。
なのに。
こんな甘い蜜たったひとつで、花斗を取られてしまった。
悔しい。私だって、できればそうしたかった。
「ごめん、そんなつもりじゃなかった」
壱月は小さな声でそう言った。
それはわかってる。
これは、ちっぽけな、母親としてのプライド。
だから、優しい言葉をかけられれば、それだけ自分が惨めになる。
涙が止まらなくなった。
自分の余裕の無さが顕著になっていくようで、虚しくて。
そんな私に、壱月は優しい声色で続けた。
「でも、愛音は、さ」
それで、私は余計に惨めな思いに取り憑かれる。
膝の上で、拳を握りしめた。
すると、それに壱月が触れた。
瞬間、私の拳がピクリ跳ねて、離れた壱月の指先はそのまま宙を漂う。
それでも、壱月は声色を変えずに続けた。
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