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「母親である前に、一人の女なんだから。甘えろよ。うまくいかないときは、これからは一緒に背負うから」
その言葉に、涙が止まった。
代わりに、頭の中で何かがプチンと切れた。
「……はぁ?」
思わず、心の声が漏れた。
――いったい、何様のつもり?
壱月は突然目の前に現れて、父親としての責務を“あまやかし”で果たそうとしてるだけ。
そもそも、私がこんな想いを一人で抱えた原因って、壱月じゃないか!
「愛音……?」
優しい声色は心配するように、私の名を呼ぶ。けれど。
「甘えろ、とか、何なの?」
口から飛び出した言葉。
本当は理性で制御できなきゃいけないそれを、私は止めることができなかった。
「一緒に背負うとか、意味分かんない。ただの家主と居候。それだけでしょ、私たち!」
言いながら、そのとおりだと自分に言い聞かせた。
こんなヤツに期待するだけ無駄だと、心が警鐘を鳴らす。
そうだ。
何を言おうと、こいつは初恋を最低な初キスで終わらせた、ハジメテを奪って逃げた、“最低の男”。
こんなやつに、花斗の父親なんて、つとまるものですか!
――そう、思ったのに。
壱月は変わらず優しい声で続けた。
「……ごめん、でも、俺は、さ……?」
その声が、耳元に近づく。
気がつけば、私はなぜか壱月の腕の中に閉じ込められていた。
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