4726人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
平日の午前中の空港の屋内デッキは人が少ない。
空いているベンチを見つけて走っていった花斗は、我が物顔でそこに座る。
離陸する飛行機の一番見やすい、花斗の特等席だ。
目の前の大きなガラス窓から、目下に滑走路が見えるのだ。
「ママ、遅い」
「はいはい、ごめんなさい」
「『はい』は一回でしょ!」
「はい」
二歳児の小言を受けながら彼に水筒を手渡すと、自分で開けてピュッと飛び出してきたストローに口をつけた。
もちろん、視線は目の前の飛行機たちに釘付けだ。
器用になったな、なんて、こんなところにも子供の成長を感じながら、私も花斗の隣に座って自分のタンブラーを取り出した。
「あのパイロットさん、あの飛行機に乗ってるのかな?」
「ぶえ、ゴホッゴホ!」
突然の息子の呟きに、飲み込みかけていたお茶が変なところに入ってしまう。
「あーママ、こぼした」
「ごめん」
「あー、もう片付けが……」
花斗は、いつも自分がご飯をこぼした時に私がする口癖を真似をする。
それで、思わず笑ってしまう。
壱月との再会のせいで胸がモヤモヤしていた。
けれど、それを花斗が吹き飛ばしてくれたような気がする。
「笑わないでよ!」
「ごめんごめん」
そう言いながら、また思わず笑ってしまう。
花斗は「もう! 知らない!」と怒りながら、もう次の飛行機に目線を移していた。
最初のコメントを投稿しよう!