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はっと飛び起きた。
「夢……か」
慌てて自分の身体を抱き締めた。
びっしょりと汗をかいている。
ふと隣を見れば、ベランダから差し込む朝日に照らされ、すやすやと眠る花斗の姿。
ほう、と胸を撫で下ろすと、花柄のエプロンが視界に入る。
昨夜、壱月から手渡された“お土産”の包みの中身だ。
どうやらアメリカニュージャージーの有名なオーガニックコットンの生地らしい。
「どうして、こんな夢……」
あの日――壱月に抱かれた日は、こんなじゃなかった。
あの日、私はただひたすらに幸せだった。
――幸せだったと思いたいだけかもしれないが。
やるせない気持ちにため息をこぼすと、隣でもぞもぞと花斗が動く。
「……ママ?」
「あ、花斗、おはよう」
慌てて笑顔を作る。
あの日生まれた小さな命は、今、こうして隣にある。
決して辛いことばかりじゃなかった。
うん、そうだ。
花斗は、私の宝物。
そう思ったら、今度は偽物じゃない笑顔が溢れた。
「ママ、おはよう」
今日の寝起きの花斗は、機嫌がいい。
それだけで、十分幸せじゃないか。
「さて、準備しますか」
「しますか!」
私が言えば、花斗が真似をする。
鳴りかけた目覚ましを止めると、私は花斗と共にベッドから抜け出した。
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